家庭医学館 の解説
おとなのあとぴーせいひふえん【おとなのアトピー性皮膚炎 Adult Atopic Dermatitis】
[どんな病気か]
アトピー性皮膚炎は本来、乳幼児がかかる代表的な皮膚疾患です。通常は小学校の低学年でほとんど治るとされてきました(「子どものアトピー性皮膚炎」)。
ところが、1980年代になり、皮膚炎の重症化や慢性化が問題になりはじめました。そのような例では、これまで報告されたことのない皮膚症状が明らかになってきたのです。ある大学病院皮膚科の統計をみても、1975年度のアトピー性皮膚炎の患者さんの年齢ピークは1歳でしたが、85年度には16~20歳の思春期にピークが移り、さらに最近のデータでは20~25歳にピークが移ってきています。
このようなおとなのアトピー性皮膚炎で問題となる皮膚症状は、難治性の顔面紅斑(がんめんこうはん)、頸部(けいぶ)(くびの両横)の網目状の色素沈着(しきそちんちゃく)、全身の皮膚の浮腫性(ふしゅせい)の(むくみのような)発赤(ほっせき)、腫脹(しゅちょう)です。
[原因]
おとなのアトピー性皮膚炎でみられる重症の皮膚症状は、難治性の湿疹(しっしん)ないし痒疹(ようしん)(かゆみのある発疹)が全身にでき、通常の外来治療が効かないタイプと、副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン(ステロイド)薬の不適切な使用に基づくと考えられるタイプに大別されます。通常、両者は混在しています。
難治化、慢性化の原因としては、ステロイド薬以外に、ストレスや感染症、紫外線などのほか、シャンプーや石けんの使いすぎによる皮膚のバリア(防護)機能の破壊も考えられています。
[検査と診断]
アトピー性皮膚炎の検査、診断については「子どものアトピー性皮膚炎」を参照してください。おとなのアトピー性皮膚炎の診療において重要なのは、白内障(はくないしょう)、網膜剥離(もうまくはくり)などの眼合併症の有無、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、ホルモンバランスや生理の異常の有無の検討と、他疾患との鑑別診断です。とくに皮膚リンパ腫(しゅ)や組織球症などの悪性疾患では、組織の病理検査が行なわれ、接触皮膚炎(せっしょくひふえん)や光線過敏症(こうせんかびんしょう)ではパッチテストや光線検査が行なわれます。
◎治療は根気よく続ける
[治療]
軽症の場合は、スキンケアを主体とした外用療法とかゆみどめを目的とした内服療法を行ないます。ステロイド薬の外用は、びらん、紅斑(こうはん)や湿潤(しつじゅん)など、中等度以上の湿疹に対して短期間だけ行なわれます。
抗生物質は原則的には使用しませんが、明らかな細菌感染(膿痂疹(のうかしん)、膿疱(のうほう))がある場合は、皮膚に効くものを選んで短期間使用されます。消毒療法は、正常な細菌叢(さいきんそう)(微生物の集まり)を破壊し、接触皮膚炎がおこりやすくなったり、耐性菌(たいせいきん)を増やす危険もあるため、まだ治療法として確立していません。
[日常生活の注意]
スキンケアを十分に行ないます(入浴法、外用剤のつけ方、衣類の選択、掃除の方法、スキンケア用品について専門医に指導を受けてください)。
増悪因子(ぞうあくいんし)(症状悪化の原因)を明らかにし、専門医と密接に連絡をとり、治療を進めていくことがたいせつです。さまざまの情報にふりまわされず、納得のいく治療法を根気よく続けることが大事です。症状が悪化したときは、早めに専門医を受診してください。