日本大百科全書(ニッポニカ) 「カワセミ」の意味・わかりやすい解説
カワセミ
かわせみ / 翡翠
魚狗
kingfisher
広義には鳥綱ブッポウソウ目カワセミ科に属する鳥の総称で、狭義にはそのうちの1種をさす。大形のものはショウビンともよばれる。この科Alcedinidaeの鳥は、南極大陸を除くすべての大陸に広く分布し、世界で14属90種が知られている。ヨーロッパやアメリカには各1種しかいないが、アフリカ、東南アジア、オセアニアでは種類が多い。日本では、カワセミ、ヤマセミ、アカショウビン、ヤマショウビン、ナンヨウショウビン、ミヤコショウビンの6種が記録されている。この科の鳥は全長14~40センチメートル、体に比べて頭が大きく、嘴(くちばし)は太くて長く、先がとがっている。尾は短いものが多いが、ニューギニアにすむラケットカワセミは、尾が長く、その先端に円い羽弁がある。金属光沢の美しい羽毛をもつものが多い。足は短く、前の3本の足指が根元で癒合している。水辺にすみ、魚を捕食するものが多いが、草原や森林にすみ、カエル、カニ、カタツムリなどを食べる種もある。土の壁に嘴で穴を掘って巣穴とするが、腐った木やシロアリの巣塔を利用する場合もある。ワライカワセミは鳴き声で知られる。
種としてのカワセミAlcedo atthisは、日本でも留鳥として全国でみられるが、ユーラシアの中部以南、北アフリカの一部、アフリカ南部、インドネシアとオセアニアの一部に分布する。全長約17センチメートル、翼長約7.5センチメートル、頭上は暗緑色、後頸(こうけい)、背、腰は青緑色に輝き、体の下面は橙黄(とうこう)色をしている。緑色の宝石翡翠(ひすい)の名は、このカワセミの色に由来するものと思われる。嘴は黒いが、雌は下の嘴の基部が赤い。足は短くて赤色をしている。つねに川、池、沼などの近くにすみ、水の上の横枝、水の中の杭(くい)や岩に止まって魚をねらう。魚をみつけると急降下して水に飛び込み、嘴でとらえる。停空飛翔(ひしょう)をしてから飛び込む場合もある。いったん魚を飲み込むが、骨などの不消化物は小さな塊にして吐き出す。鳴き声は、チッチーと鋭い。
繁殖期の初期になると、雄は雌に魚を与える。巣は、赤土の壁面に嘴で50~100センチメートルの深さに掘ってつくる。4~7個の白い卵を産み、抱卵日数は約20日、育雛(いくすう)日数は約25日である。
ヤマセミCeryle lugubrisはアジア東部に分布し、日本では九州以北に留鳥としてすむ。全長約37センチメートル、日本にすむカワセミ類のなかで最大種である。体の上面は、白と黒の横縞(よこじま)で頭部に冠羽がある。下面は白く、胸部に雄は黒と黄褐色の斑(はん)、雌は黒の斑がある。山地の水量の多い渓流や湖にいて魚を捕食する。比較的高いところをゆっくりした羽ばたきで飛ぶ。カワセミと同じように、赤土の壁に巣をつくり、4~7個の卵を産む。ミヤコショウビンHalcyon miyakoensisは、1887年(明治20)2月5日に沖縄県宮古島でただ1羽採集されただけで、その後世界のどこからも発見されていないので、絶滅したと考えられている。全長約22センチメートル、頭と体の下面は橙褐色で緑色の過眼線があり、背は緑色、翼、腰、尾は青色、足は赤色をしている。ヤマショウビンは数少ない旅鳥、ナンヨウショウビンは南方からの迷行例が石垣島にある。
[高野伸二]