オルト水素(読み)オルトスイソ

化学辞典 第2版 「オルト水素」の解説

オルト水素
オルトスイソ
ortho-hydrogen

H2 分子のうち,二つの核スピン平行である H2 分子をいう.陽子の核スピン量子数は1/2なので,H2 分子には合成核スピンが0のものと1のものとがある.0のものをパラ水素,1のものをオルト水素といい,室温で平衡にすると存在比は1:3でパラ水素が多くなり,液体窒素温度ではほぼ1:1である.オルト-パラの転換は磁気的な影響で起こるので,低温で平衡にしたのち温度を上昇させても,磁場の作用がなければ存在比は低温のときのままに保たれる.これを利用して水素分子の関係する化学反応が研究されている.存在比はパラとオルトの比熱相違を利用して測定されてきたが,現在は低温ガスクロマトグラフィーで分離定量できるようになっている.一般に,核スピン量子数iであるような等核二原子分子の合成核スピン量子数Iは,次のように表される.

I = 2in

ここで,nは0または正の整数で,n偶数のときをオルト,奇数のときをパラという.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「オルト水素」の意味・わかりやすい解説

オルト水素
おるとすいそ
ortho hydrogen

H2分子のうち二つの水素原子の核スピンが平行である分子をいう。質量数1の通常の水素原子はスピン量子数1/2の核スピンをもち、これはあたかも小さな磁石のような性質を示す。この水素原子が2個結合した水素分子では、小磁石の向きが平行になる場合と、反平行になる場合の2種類の状態を生ずる。平行になる場合をオルト水素、反平行になる場合をパラ水素とよんで区別する。

 常温付近では統計力学的重率に従ってオルト水素とパラ水素との比は3対1になるが、低温になると、より安定なパラ水素の状態になろうとする。しかし、オルト、パラ間の変換速度は一般に小さく、常磁性物質を触媒にしないと促進されない。オルト水素とパラ水素の間には化学的な性質の差はほとんど認められないが、比熱にはかなりの差があり、たとえば100Kでのオルト水素の比熱6.3カロリー/モルはパラ水素の値0.33カロリー/モルの19倍にもなる。

[岩本振武]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「オルト水素」の意味・わかりやすい解説

オルト水素
オルトすいそ
orthohydrogen

水素分子を構成する2つの原子に属する陽子のスピンの向きが同じ向きにそろったものをオルト水素,互いに逆向きのものをパラ水素という。陽子がフェルミ統計に従うことから,オルト水素の回転量子数は奇数,パラ水素では偶数をとらなければならない。したがって,両水素の化学的性質は同じであるが統計的縮退度が違うため,低温での熱力学的性質が異なってくる。通常の環境ではオルト水素とパラ水素の間の移り変りは起りにくく,常温におけるオルト水素とパラ水素の比 (3対1) は,低温にしたときも維持されていると考えれば,低温の比熱が説明される。なお常磁性物質などを触媒にするとオルト水素とパラ水素の移り変りを速めることができ,十分に低温ではエネルギーの低いパラ状態だけの水素をつくることもできる。

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改訂新版 世界大百科事典 「オルト水素」の意味・わかりやすい解説

オルト水素 (オルトすいそ)

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のオルト水素の言及

【水素】より

…共有結合をつくっている1対の電子は,〈パウリの原理〉に示されるように,つねに反対方向の自転運動(スピン運動)をしていなければならないが,水素分子ではさらに核の陽子もスピンをもっており,この二つの核のスピンがどちらも同方向の場合と,たがいに反対方向のものとが存在し得る。前者をオルト水素ortho‐hydrogen,後者をパラ水素para‐hydrogenという。常温付近ではオルト水素とパラ水素の比は3対1であってほとんど変化しないが,低温になるとパラ水素のほうが生じやすくなり,極低温で磁性体を触媒に使うなどの方法によれば,ほとんど純粋のパラ水素を得ることも可能になる。…

※「オルト水素」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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