オルニチン回路(読み)おるにちんかいろ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「オルニチン回路」の意味・わかりやすい解説

オルニチン回路
おるにちんかいろ

動物体内で尿素の生成にあずかる反応経路で、尿素回路ともよばれる。タンパク質などの窒素原子を含む食物をとると、そのうちの一部の窒素原子は余分となり、アンモニアの形で遊離される。水中にすむ無脊椎(むせきつい)動物や硬骨魚類ではアンモニアのまま排出するが、陸上生活をする動物では細胞にとって毒性の強いアンモニアを無害な形にし、体内に蓄積してから排出している。爬虫(はちゅう)類や鳥類ではアンモニアを不溶性の尿酸に変え排出するため、多数の鳥の棲息(せいそく)する所には白色の結晶(グアノ、鳥糞(ちょうふん)石)が残される。また軟骨魚類両生類爬虫類のうちカメの仲間、哺乳(ほにゅう)類ではアンモニアを尿素に変える。アンモニアから尿素への合成は大部分肝臓内のミトコンドリアで行われ、そのときの物質の変化経路がオルニチン回路で、これが尿素生成の主要な経路と考えられている。この回路は、TCA回路を発見したH・A・クレブスとヘンスライトKurt Henseleit(1907―1973)によって、1932年に肝臓の切片を使い実験的に証明された。このことからクレブス‐ヘンスライト回路ともよばれる。

 オルニチン回路はおもに三つの化合物、オルニチン、シトルリンアルギニンの代謝経路からなっており、それぞれの反応に関与する酵素は肝臓、植物の種子などから精製、結晶化されている。まずカルバミルリン酸合成酵素の作用により1分子のアンモニア(あるいはグルタミンのアミノ基)と炭酸ガスにATP(アデノシン三リン酸)のリン酸が反応してカルバミルリン酸がつくられる。酵素オルニチントランスカルバミラーゼの作用によりカルバミルリン酸とオルニチンが結合し、シトルリンとなる。シトルリンはアルギノコハク酸合成酵素によりアスパラギン酸からアミノ基(もう1分子のアンモニア)をとり、アルギノコハク酸となり、続いてアルギノコハク酸リアーゼの作用でアルギニンになる。最後にアルギニンは酵素アルギナーゼにより、尿素と出発物質のオルニチンに分解される。オルニチンはふたたびこの回路で使われるため、結局、2分子のアンモニアから1分子の尿素がつくられていることになる。尿酸はさらに複雑な反応を経てつくられ、1分子中に尿素が2分子含まれている。細胞内でアミノ酸のアルギニンが生合成されるときも同様な反応経路をとり、まずグルタミン酸からオルニチンが合成され、シトルリンを経てアルギニンとなる。

 オルニチン回路は肝臓の重要な生理作用の一つであり、この回路の働きが十分でないと高アンモニア血症となり生命に危険を及ぼす。また水中生活をするオタマジャクシはアンモニアを排出しているが、陸上生活をするカエルになると尿素を排出するようになり、脊椎動物が水中生活から陸上生活へと進化してきた経過とよく一致している。

[菊池韶彦]

『バーク他著、入村達郎他監訳『ストライヤー 生化学』第6版(2008・東京化学同人)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「オルニチン回路」の意味・わかりやすい解説

オルニチン回路
オルニチンかいろ
ornithine cycle

脊椎動物における尿素生成のための循環的反応経路で,研究者の名にちなんでクレブスの尿素回路ともいう。アミノ酸の一種であるオルニチンに,アンモニアと炭酸ガスが組込まれてシトルリンとなり,ここにさらにアミノ基が加わってアルギニンとなり,アルギニンから尿素 (H2N)2CO が切り離されてオルニチンに戻る。アンモニアや炭酸ガスは遊離のものとしてではなく,カルバモイルリン酸 H2NCOOPO32- とかアスパラギン酸のアミノ基として導入される。また回路全体は,アデノシン三リン酸の加水分解のエネルギーで駆動される。オルニチン回路の反応は主として肝臓で進行しており,尿中に排出するための尿素生成の生理的意味をもつ。

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