エネルギーの高い電子または光子が物質内を通過する際に、逐次電磁相互作用により電子と光子が「ねずみ算」的に増殖してシャワー状になる現象をいう。
高エネルギー電子は、原子核との電磁相互作用によって減速・散乱を受けて、光子を射出する制動放射をおこす。高エネルギー光子は、原子核の近傍で負エネルギー状態にあった電子を正エネルギー状態にたたき出すが、その際に、抜け穴としてできる陽電子をいっしょにたたき出し、電子・陽電子の対(つい)生成をおこす。
電子が物質内で制動放射を次々に繰り返し、そのエネルギーを1/eに減少させるまでに走る距離を放射長(カスケード単位)という。これは、物質の原子核の電荷や密度に関係して物質ごとに決まる値である。同一物質内では、光子が電子・陽電子対生成をおこす平均自由行程とほぼ等しい。
放射長に比較して十分に厚い物質に高エネルギー電子または光子が入射した場合、個々の電磁素過程で生成された光子や電子がまだ十分高いエネルギーをもつ確率が高い。そこで、入射粒子の進行方向に沿って同様の過程が次々に繰り返されるので、電子や光子の数がねずみ算的に増え、入射粒子の運動方向を軸としてシャワー状に増殖する。
増殖が進むにしたがって、入射エネルギーは子孫の電子や光子に細分化されていく。個々の電子や光子のもつエネルギーが物質に特有な臨界エネルギー以下になると、個々の粒子は増殖能力を失い、物質に吸収される。シャワー中の総電子数は、はじめは急速に増加するが、一度極大に達したのちは、しだいに減衰し、ついにはシャワーが消滅する。
シャワーの発達の途中で、電子成分は電磁散乱により進路を曲げられてゆくので、シャワーは軸からずれた横方向にも広がる。電子の散乱される角度はエネルギーに逆比例するので、高エネルギー電子は中央部に残り、低エネルギー電子は周辺部に散る。したがって、観測面での横広がりの様子は、その直前のほぼ1放射長内での低エネルギー電子の散乱によって決まる。シャワーは、入射エネルギーが高いほど極大に達するのが遅く、極大値は大きく、遅くまで中央集中度が高い。
このような電子数の増減や、横広がりの様子は、一次元または三次元シャワー理論により、ある近似の下で計算できる。コンピュータの発達により、いかなる入射エネルギーに対しても、カスケード・シャワーのシミュレーションが精度よく行えるようになっている。欧米の高エネルギー物理学研究所で開発されたプログラムがよく利用されている。入射親粒子の進行方向(シャワー軸)に直交する平面を一定の距離ごとにとり、各面を通過する電子の数と、シャワー軸を中心とする横方向分布とを計算する。この理論計算値と実験による観測値とを比較することにより、入射親電子や親光子のエネルギーを決めることができる。
高エネルギー素粒子反応で生成される中間子のうち、中性のπ0とよばれる粒子は、ごく短い寿命で2個のγ(ガンマ)線に崩壊する。個々のγ線が物質中で発達させるカスケード・シャワーのエネルギーをこの方法で測定し、親のπ0中間子についての情報を得ることができる。宇宙から飛来する宇宙線中には高エネルギー電子やγ線も含まれている。それらが測定器の中で引き起こすカスケード・シャワーのエネルギーをこの方法で測定し、それらの宇宙空間中における起源や加速機構について論じることも行われている。
[丹生 潔]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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