荷電粒子の飛跡を観測するための写真乾板。高速の荷電粒子が写真乾板に入射すると、乾板の乳剤中の臭化銀は荷電粒子との電磁的な相互作用によって励起され、銀粒子が現像可能な状態になる。ベックレルは写真乾板がその上に置かれたウラニウム鉱石によって感光したことから放射能を発見したが、普通の光学用写真乾板は、光に対する感度に比べて荷電粒子に対する感度が鈍く、荷電粒子の観測に適しない。これに対して、乳剤を改良して高速の荷電粒子に対する感度を高め、また乳剤を厚くして乳剤中での荷電粒子の飛跡の観測を容易にしたものが原子核乾板である。普通の光学用乾板は乳剤の厚さがたかだか20マイクロメートル(1マイクロメートルは1万分の1センチメートル)程度であるが、原子核乾板では乳剤の厚さが2000マイクロメートルに及ぶものがある。また乳剤中には、光学用乾板の4倍もの量の臭化銀が含まれている。一般には荷電粒子が乾板に対して斜めに入射するようにセットし、荷電粒子の通過によって感光した乾板を現像して、300倍程度の倍率の顕微鏡で飛跡を観測する。黒化した銀の粒の個数は、荷電粒子の乳剤中でのエネルギー損失に比例する。これによって荷電粒子のエネルギーを推定し、あるいは飛跡の単位長さ当りの銀粒子の個数によって荷電粒子の速度を推定し、これらの情報によって質量を推定することもできる。
[西村奎吾]
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宇宙線や素粒子の反応の研究に用いられる乾板。入射荷電粒子が乳剤中のハロゲン化銀粒子を感光させてできる飛跡を顕微鏡観察し,粒子の種類,質量などを決定する。飛跡を正確にとらえるために,乳剤(原子核乳剤という)はハロゲン化銀粒子が0.1~0.5μmと小さく,かぶりが少なく,かつ粒子密度がきわめて高い。乳剤の膜厚は50~600μmで,厚いものでは支持体を使わずに乳剤膜だけ(ペリクルと呼ばれる)で用いられる場合もある。乳剤膜厚が厚い場合には全体を均一に現像するために,低温で現像液を浸透させておいてから徐々に温度を上げて反応させる温度現像法が使われる。原子核乾板は宇宙線の研究を中心に第2次世界大戦後急速に発展し,中間子の発見をはじめ多くの重要な成果をあげた。最近では乾板と鉛などの金属板や炭素板などを組み合わせたエマルジョンチェンバーemulsion chamberを用いて,高エネルギー領域の宇宙線および加速器実験が行われている。
執筆者:山田 潔
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…前者の場合,回路図の縮小からウェーハへの焼付けまで各工程で使われ,解像力が高いこと,ごみが少なく傷がつきにくいことが要求される。(3)原子核乾板 宇宙線や加速器実験において荷電粒子の飛跡を記録するもの。飛跡を正確にとらえるために,ふつうの感光材料とくらべてハロゲン化銀粒子のゼラチンに対する比率が高く(重量比で8:2くらい),乳剤層の膜厚も50~600μmと厚い。…
※「原子核乾板」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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