カストル(読み)かすとる(英語表記)Castor

翻訳|Castor

日本大百科全書(ニッポニカ) 「カストル」の意味・わかりやすい解説

カストル(ふたご座)
かすとる
Castor

ふたご座のα(アルファ)星。ギリシア神話の大神ゼウスの息子で、双子の兄の名前「Kastor」に由来。日本のいくつかの地方では、双子の対の星(ポルックス)とともに「二つ星(ふたつぼし)」「二星(にぼし)」などとよばれる。実視等級1.6等で青白い輝きを放っている。距離は52光年。天球上の位置は、2000年分点の座標で赤経7時35分、赤緯プラス31度53分。日本では冬の宵に天頂付近を通る。カストルは六重連星という珍しい星である。望遠鏡で見ると、1.98等のカストルA星と2.88等のカストルB星とが実視連星系をなし、420~500年の周期で共通重心の周りを公転している。少し大きな望遠鏡で見ると、このA、B2星から角度で73秒離れたところに、光度9.0等の赤みがかったカストルC星があり、A、B2星の周りを公転している。公転周期は数万年以上と思われる。著しい特徴として、A、B、Cの3星とも連星であることが知られている。A星は公転周期9.21日の分光連星。主星(Aa星)はスペクトル型A1Vの主系列星で、表面温度約9300K、質量は太陽の約2.2倍、半径は2.3倍程度、伴星(Ab星)はスペクトル型が不明だが、質量は太陽の半分程度と推定されている。B星は公転周期2.93日の分光連星。主星(Ba星)はスペクトル型A2Vm、すなわち主系列の金属線A型星で、表面温度9000K程度、質量は太陽の約1.7倍、半径は1.6倍程度、伴星(Bb星)はスペクトル型不明で、質量は太陽の半分程度と見積もられている。C星は公転周期0.814日の分光連星かつ食連星であり、ふたご座YY星という変光星名をもつ。主星、伴星ともスペクトル型M1Veの主系列星で、表面温度はともに約3700K。主星(Ca星)の質量は太陽の0.62倍、半径は0.76倍、伴星(Cb星)の質量は太陽の0.57倍、半径は0.68倍。両星とも表面活動が盛んなために、ときどき爆発(フレア)をおこし、すこし明るくなることがある。

岡崎 彰]



カストル(ギリシア神話)
かすとる
Kastōr

ギリシア神話の双子神ディオスクロイ一人。母はレダ。父はゼウスとも、ティンダレオスともいわれる。またティンダレオスの子であることから、カストルは人の子として死ぬ運命にあったという。彼は戦術に優れ、乗馬も巧みであった。叔父レウキッポスの娘ヒラエイラを略奪して妻とし、アノゴンを得た。

[伊藤照夫]


カストル(フランス)
かすとる
Castres

フランス南西部、タルン県にある商工業都市。アグー川の河畔にあり、人口4万3496(1999)。染料植物と水に恵まれ、13~14世紀以来、織物業の中心として栄えてきた。織物機械、製材、家具製造業も盛ん。ゴヤ博物館がある。

[青木伸好]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カストル」の意味・わかりやすい解説

カストル
Castres

フランス南部,ローラゲ地方,タルン県の都市。セベンヌ山地西側に発して北西流してタルン川に合流するアグー川の中流にのぞむ。ローマの駐屯地が町の起源で,ベネディクト会修道院 (647) が開かれて町の基礎ができ,中世以来,後背山地のヒツジの飼育地帯と前面平野の染料供給地の接点にあたり,しかもアグー川の清水に恵まれるという立地条件によってプロテスタントの技術者を受け入れ,毛織物の中心として発展した。ナント勅令廃止に伴うプロテスタントの他国への移住により 17世紀には打撃を受けたが,近代に入って再興し,現在でも毛織物が主産業である。そのほかに織機,工具,染料などの関連工業も立地し,薬品工業も重要。また周辺農産物の大集散地でもある。 12世紀の要塞塔,17~18世紀の聖堂など中世以来の建築物が多く残っているが,旧司教館の市立美術館はゴヤの収集により特に有名。人口4万 6292 (1990) 。

カストル
Castor

ふたご座α星 (α-Gem) の固有名。実視等級 1.6等で,β星のポルックスより暗い。スペクトル型は A1の矮星。三重連星で,そのおのおのが連星なので,計6個より成る星系の総称ということになる。

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