日本大百科全書(ニッポニカ) 「カスペルソン」の意味・わかりやすい解説
カスペルソン
かすぺるそん
Torbjörn Oskar Caspersson
(1910―1997)
スウェーデンの生化学・細胞学者。1936年ストックホルム大学で医師の資格を得た後、ストックホルムのカロリンスカ研究所の医学細胞学研究および遺伝学部門の教授兼部長を務めた。顕微分光測光法を開発し、核酸のDNA(デオキシリボ核酸)とRNA(リボ核酸)が260ナノメートルの波長の光を強く吸収することと、DNAのみがフォイルゲン試薬によって染色されることを利用して、真核生物の核酸の細胞内分布を調べた。その結果、DNAはほとんど核のみにあり、一方RNAの大部分は細胞質内に存在することを明らかにした。これを1936年に学位論文にまとめ、その後、DNAの分子量を実験的に求めた。1939年には急速に成長する細胞内にRNAが多数含まれることを指摘したが、この知見を、ベルギーのブラーシェは化学分析によって確認した。この結果、タンパク質合成が細胞内のRNA量に密接に関係していることが明らかとなった。その後、遺伝子を構成する4種のヌクレオチドの中のグアニンに親和性の高い標識色素であるキナクリンマスタードを発見し(キナクリン染色、Qバンド染色)、染色体に特徴的な縞(しま)模様のパターンを分類し、ヒトの染色体の特徴を解析した。これらの研究がその後の細胞化学・分子生物学の発展の基礎となった。
[宇佐美正一郎・宇佐美論]