蔓脚(まんきやく)亜綱ミョウガガイ科の小型甲殻類。本州以南の岩礁海岸の潮間帯の岩の割れ目などに固着,群生し,きわめてふつうに見られる。黄色い長三角形,指状にも見える殻をつけた掌に暗色の手首をつけた,一見亀の手のような形に見えるのでこの名がある。本州からマレー半島まで広く分布する。体は3~4cmくらいの大きさのものが多く,頭状部と柄部に分かれている。頭部は扁平な三角形状,黄色,ときに黄褐色または黄緑色を帯びる。30~34枚の大小の長三角形状をした殻板で包まれている。中央でいちばん背の高い背板,これと向きあう楯板(じゆんばん),およびこれら二つの殻板の間にある上側板が細い間隙(かんげき)状の殻口を取り囲んでいる。頭状部と柄部の境目には小さな22枚くらいの下側板があり,周囲を取り囲んでいる。柄部はほぼ円筒形,暗い紫褐色をし,表面は無数の鱗片によって覆われている。頭状部の殻板と柄部の鱗片の上端には殻頂があり,それを中心に下部に明りょうな成長線が刻まれている。雌雄同体。ノープリウス幼生で孵化(ふか)し浮遊生活最後のキプリス幼生期の終りに,岩礁に付着し,変態して固着生活に入る。潮が満ちてくると,殻の頂にある石灰板を開き,その間からつる脚を出して盛んに伸縮させ,海水とともにやってきた原生動物,小型甲殻類,藻類などの小型プランクトンをこし集め食べる。地方によっては食用とし,塩煮にして殻をとり内部の肉を食べたり,みそ汁のだしにしたりする。
執筆者:蒲生 重男
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節足動物門甲殻綱完胸目ミョウガガイ科に属する海産動物。本州北端からマレー半島付近まで分布し、岩礁の高潮帯の岩の割れ目に群生固着する。全長5センチメートルほどで、頭状部はほぼ三角形で扁平(へんぺい)。上端に長三角形の爪(つめ)状の殻板があり、それらの基部を30個ほどの小さな殻板が取り巻き、これが柄部に連なっている。柄部は円筒形で、きわめて小さな殻板で密に覆われているため鱗(うろこ)状を呈する。これらの形が和名のようにカメの手を連想させる。雌雄同体。潮が満ちてくると頭状部の殻板の間から紫色の6対の蔓脚(まんきゃく)を伸ばし、プランクトンを集めて食べる。柄部内の肉を食用にする地方もあるが、焼いてもゆでてもエビの味がしておいしい。
[武田正倫]
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