日本大百科全書(ニッポニカ) 「カラスビシャク」の意味・わかりやすい解説
カラスビシャク
からすびしゃく / 烏柄杓
[学] Pinellia ternata (Thunb.) Breit.
サトイモ科(APG分類:サトイモ科)の多年草。球茎は径約1センチメートル。葉は1、2枚で長い柄があり、柄の中央付近と上端に各1個のむかごをつける。葉身は3小葉からなり、小葉は長楕円(ちょうだえん)形で長さ3~12センチメートル。5~8月ごろ球茎から長さ20~40センチメートルの花柄を伸ばし、花序を展開する。仏炎包(ぶつえんほう)は通常緑色で長さ5~7センチメートル、下部は巻き込んで筒状となる。花軸の基部5~8ミリメートルは仏炎包と隔合し、ここに雌花群をつけ、その上方で離生して雄花群をつけ、さらに6~10センチメートルの糸状の付属体となって包外に伸びる。北海道から沖縄、朝鮮、中国に分布し、畑の雑草として普通にみられる。名は仏炎包の形を例えたものである。
オオハンゲP. tripartita (Bl.) Schottはカラスビシャクに似るが、全体に大形で、葉身は深く3裂し、葉柄にむかごをつけない。液果は淡緑色で1個の種子を入れ、水に浮く。本州中部地方から沖縄に分布し、山地の林下や沢沿いの岩の割れ目などに生える。
[邑田 仁 2022年1月21日]
薬用
漢方では、地下にある茎の最下部の塊状の部分を半夏(はんげ)と称し、止嘔(しおう)、利尿、鎮咳(ちんがい)、去痰(きょたん)剤として、つわり、嘔吐、咳嗽(がいそう)、胃下垂、胃アトニー、湿性肋膜炎(ろくまくえん)の治療に用いる。とくに生姜(しょうきょう)(ショウガの根茎を乾燥したもの)を半夏とともに用いると、胃内停水、嘔吐をよく治す。
昼のもっとも長い夏至(6月22日)と、もっとも暑い大暑(7月23日)の中間(7月3日から7日まで)を歳事では半夏生(はんげしょう)という。カラスビシャクの仏炎包の形は、ヘビの頭部に似ていて異様であり、目につくので、昔から農事の目安とされてきた。すなわち、仏炎包がよくみられる芒種(ぼうしゅ)(6月6日)から半夏生の終日(7月7日)までをイネを植える期間としたわけである。このあとに植えたイネは実りがよくないとされる。このため、カラスビシャクには守田(しゅでん)という別名もある。
[長沢元夫 2022年1月21日]