日本大百科全書(ニッポニカ) 「カルダーノ」の意味・わかりやすい解説
カルダーノ
かるだーの
Girolamo Cardano
(1501―1576)
イタリア・ルネサンス期の医学者、自然主義的哲学者、数学者。ミラノ近くのパビアに私生児として生まれ、母親の不安定な愛情のため、悲しい少年期を送る。パビア、ミラノ、パドバで学び、パビア、ミラノ、ボローニャで医学を教える。いわゆる「カルダーノの公式」によって数学者として広くヨーロッパに知られた。70歳で投獄、異端審問にかけられるが、晩年はローマで過ごした。
その特異な性格は、1542年に書かれ死後出版された『自伝』(1643)にうかがわれる。きわめて旺盛(おうせい)で広範な知識欲をもち、占星術、魔術などに関する著作のほか、とくに哲学的な主著としては、百科全書ともいうべき『不思議について』(1550)、『事物の雑多について』(1557)があり、そこにはルネサンスに固有な矛盾が典型的な形で現れている。アニミズム的立場から、一方では新プラトン主義的伝統に従って、魔術のもつ思弁的価値を認めながら、他方、物質自体のなかに生命の原理をみいだし、人間を頂点とする進化論的な考えをとる。そのためアリストテレスに反し、物質に活動的な特徴を認めることによって、内在論的・進化論的自然観へと向かう一方、自然の絶対的な一つとしてのまとまりを、霊という超自然的原理に求めざるをえないことから、超越論的自然の形而上(けいじじょう)学にもなっている。人間の霊魂についてアベロエス(イブン・ルシュド)的解釈をとる。
[大谷啓治]
1545年に『すばらしい技術、すなわちアルゲブラの規則について』Artis magnae, sive de regulis algebraicisを出版、このなかに三次方程式における「カルダーノの公式」がある。この方法はタルターリア(フォンタナ)が樹立した公式で、彼がカルダーノに、他人に教えないことを条件として教えたのであるが、その約束を破って上記の著書に公表してしまい、発表者の名をつける習慣から「カルダーノの公式」と名づけられた。カルダーノの公式は、その当時には式はなく、ことばで示されているが、現代の式で示すと、三次方程式x3+px=qの根が
であることを示したものである。
[小堀 憲]
『カルダーノ著、青木靖三・榎本恵美子訳『わが人生の書――ルネサンス人間の数奇な生涯』(1980・社会思想社/1989・現代教養文庫)』▽『清瀬卓・澤井繁男訳『カルダーノ自伝』(1995・平凡社)』