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分析哲学 ぶんせきてつがくanalytic philosophy

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

分析哲学
ぶんせきてつがく
analytic philosophy

広義には,哲学の基本態度を分析に求める反形而上学的哲学諸流派をいう。特に 19世紀末から欧米で盛んとなった。その代表的なものは,(1) イギリス経験論の伝統を生かそうとするケンブリッジ実在論,(2) ウィーン学団論理実証主義,(3) ウィーン学団とアメリカのプラグマティズムの結びついた分析的プラグマティズム,(4) ケンブリッジ分析派の精神を継承し,日常言語の分析を通して真理,価値の意味を明らかにしようとするオックスフォード学派の諸流派である。これらは論理的分析や記号論理学を利用したりして問題の明確化をはかり,場合によっては問題の無意味化 (消去) を行う。狭義の分析哲学はウィトゲンシュタインの晩年から今日の日常言語学派やおもにアメリカにおける意味論的分析をさす。

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知恵蔵の解説

分析哲学

主に英米圏で広まり、現象学、実存の哲学、構造主義と並び、20世紀の大きな哲学潮流の1つとなった。分析哲学は、認識主観や個人の生、文化や社会のあり方よりも、思考の営みの根幹である人間の言語そのものに注目する。分析哲学の展開は、まず、ケンブリッジで20世紀初頭に現れたラッセルらの哲学から始まる。大陸の哲学、特にヘーゲル哲学をあいまいで非合理な哲学とみなしたラッセルは、言語からあいまいさを取り除き、数学的な記号の体系として厳密に整理すれば、哲学から非合理な思考は一掃されると考えた。この発想は、ウィーンを中心に生まれた「論理実証主義」の運動に受け継がれ、カルナップらは、数学や論理学のような形式的に真偽が明確な命題と経験によってその真偽が検証されるような命題との2種類の命題のみを有意味とした。これは哲学の言語を科学の言語に切り詰める極端な見解でもあり、多くの批判を受けた。その後、科学以外の言語表現、日常言語の重要性も指摘されるようになり、オースティンは数学や科学の言語以外の様々な言語行為が有意味であることを明らかにする「言語行為」論を打ち立てた。

(石川伸晃 京都精華大学講師 / 2007年)

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デジタル大辞泉の解説

ぶんせき‐てつがく【分析哲学】

analytic philosophy》第二次大戦後の英米を中心とする代表的哲学。言語分析を通して哲学の問題を解決あるいは解消しようとする。日常言語の実際の使用法を注意深く記述するという方法によって分析を行うオックスフォード学派(日常言語学派)と、人工言語を積極的に案出してそれによる分析を行う人工言語学派とがある。

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百科事典マイペディアの解説

分析哲学【ぶんせきてつがく】

現代の英米哲学を代表する思潮。analytic philosophyの訳で,論理分析logical analysis,哲学的分析philosophical analysisとも。
→関連項目実証主義

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世界大百科事典 第2版の解説

ぶんせきてつがく【分析哲学 analytic philosophy】

哲学的問題に対し,その表現に用いられる言語の分析から接近しようとする哲学。論理分析logical analysis,哲学的分析philosophical analysisともいう。言語の分析にかぎらず広く言語の考察から哲学的問題に迫ろうとする哲学をすべて〈分析哲学〉と呼ぶこともあるが,これは不正確である。 言語分析は20世紀の初頭,B.A.W.ラッセルG.E.ムーアによって始められたといってよい。

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大辞林 第三版の解説

ぶんせきてつがく【分析哲学】

二〇世紀に主として英米を中心に展開された哲学。哲学的問題はそれを表現する言語形式を分析し、意味を明確化することによって解明または消去されるべきだと主張する。フレーゲ・ラッセルらによって創始された。記号論理学を用いた論理分析を重視する人工言語学派(前期ウィトゲンシュタイン、カルナップなど)と日常言語の使用形態を緻密に分析する日常言語学派(後期ウィトゲンシュタイン、ライル、オースティンなど)とに大別される。アメリカではプラグマティズムと結びついて独自の発展を遂げた(クワイン、デイビッドソン、ローティなど)。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

分析哲学
ぶんせきてつがく
analytic philosophy

20世紀の初頭から現在に至るまで、英米を中心に行われている哲学研究の形態をいう。哲学の問題を考察する際に、言語の働きにとくに注目し、言語の分析を通じて哲学の問題を解決(あるいは解消)しようとする「方法」、および、バークリーやヒュームに起源をもつ経験主義的な考え方を受け継いでいる点が、その特徴である。[丹治信春]

哲学的分析

言語分析、すなわち言語表現の意味を明確化するという作業は、つねに哲学において不可欠であったといってよいであろう。しかし、従来それは哲学的考察に対する一つの補助手段であった。それに対してラッセルは、自らその成立に多大な貢献をした記号論理学を武器として、言語分析を哲学そのものの方法として確立したのである。日常言語における命題の表面的な文法構造から、ときとしてある種の哲学的問題が生じ、また、それに惑わされて奇妙な哲学説が主張されることがある。そこで、そのような命題を真の論理的構造を示すような命題に置き換えることによって、哲学的な問題を解消しようとするのが、「哲学的分析」とよばれる方法である。分析哲学の歴史は、この哲学的分析の方法の展開と批判の歴史である。[丹治信春]

論理的原子論

ラッセルと初期のウィットゲンシュタインは、記号論理学に、世界記述のための理想的な言語の形態をみた。そして彼らは、実在の構造は、記号論理学の構造に直接対応するものと考えた。これが論理的原子論とよばれる考えである。その考えによれば、実在を記述するための唯一の「理想言語」においては、まずもっとも単純な命題として、互いに独立な「原子命題」があり、他のすべての命題(複合命題)は、原子命題から真理関数的に、すなわちそれに含まれる原子命題の真偽だけからその複合命題の真偽が決まるような形で、合成されたものである。すると、複合命題の真偽の問題は、結局、それを構成する原子命題の真偽の問題に帰着する。そして、その原子命題に対応して、実在の側に「原子的事実」が想定されるわけである。[丹治信春]

論理実証主義

論理的原子論の考えは、当時(1920年代)ウィーンを中心に始まった、マッハの流れをくむ実証主義者たちの運動に大きな力を与えた。論理的原子論の考えと、その基礎にある分析の方法によって、世界について語るすべての命題に対して、われわれの直接経験という基盤を与え、科学の命題に実証主義の立場から明確な意味を付与しうると考えられたのである。それは同時に、彼らからみればきわめてうさんくさいものである形而上(けいじじょう)学を、確かな知識としての科学からきっぱりと区別できる、ということである。そのような考えを彼らは、「検証可能性の原理」として表現した。すなわち、形而上学の命題は科学の命題と違って、直接経験によって真偽を検証することができないがゆえに無意味なのだ、と主張したのである。
 しかし、論理的原子論にも論理実証主義にも、その明快さとは裏腹に多くの困難があることがしだいに明らかになり、1930年代以降、その方針は変更されてゆくことになる。その一つの流れは、アメリカを中心とした「人工言語学派」であり、もう一つは、イギリスを中心とした「日常言語学派」である。[丹治信春]

人工言語学派

論理実証主義の延長線上でその改良を図ったのが、カルナップらの人工言語学派である。カルナップは、哲学の仕事を「科学の論理学」と位置づけ、科学に適した厳密な言語の論理的構成を精力的に行った。しかし、「唯一の理想言語」という考えはとらず、複数の言語の共存を認めた(寛容の原理)。そして彼は、しばしば事実をめぐる「哲学的」問題と考えられているものが、実はどの言語を採用するかという選択の問題なのだ、と主張した。カルナップは、言語の論理的・意味論的規則を科学の経験的内容から切り離して論ずることができる、と考えたが、クワインは、その区別(分析命題と総合命題との区別)に対して重大な異議を唱えた。それはまた、論理実証主義者による直接経験への還元的分析の可能性に対する疑義でもある。そして彼は代案として、理論が全体として経験と対峙(たいじ)するという、全体論的な理論像(言語像)を提示した。[丹治信春]

日常言語学派

イギリスを中心とする日常言語学派においては、記号論理学を指針として人工言語を構成するのではなく、現にあるがままの日常言語の実際の使用法を注意深く記述する、という方法による分析が行われた。これは以前からムーアが行っていた分析の作業の延長であるが、それが今日にまで及ぶ流れとなったことには、後期のウィットゲンシュタインの影響が大きい。彼によれば、哲学的な「問題」や「学説」は、日常的なことばの使用法の誤解から生じるのであり、その使用法を注意深く記述してその誤解を解くことによって、解消すべきものである。まさにそれこそが、哲学者の仕事なのである。日常言語分析で大きな成果をあげたほかの哲学者としてはオースティン、ライルらがいる。[丹治信春]
『B・ラッセル著、中村秀吉訳『哲学入門』(社会思想社・現代教養文庫) ▽A・J・エイヤー著、吉田夏彦訳『言語・真理・論理』(1955・岩波書店) ▽黒田亘編『ウィトゲンシュタイン』(1978・平凡社) ▽G・J・ワーノック著、坂本百大・宮下治子訳『現代のイギリス哲学』(1983・勁草書房)』

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