ドイツの哲学者、数学者。現代の記号論理学の創始者である。その『概念文字』Begriffsschrift(1879)は、数学的証明の厳密な形式化がそのなかで遂行できる言語を提出したが、そこで初めて使用された変項と量化子による文の分析は、現代論理学をそれ以前の論理学から区別するものである。この形式言語を算術に適用する試みから、算術が自ら体系化した論理学から導出できることをみいだした。この発見を、ほとんど記号を用いずに展開したのが『算術の基礎』Die Grundlagen der Arithmetik(1884)である。この著作は、数に関するそれまでの哲学的所説に対する批判の鋭さと、その哲学的含蓄の深さからいって、古典的な価値をもつ。ついで、形式的体系のなかで算術を論理学から導出することに着手するが、その前に、その形式的体系の基礎についての考察をいくつかの論文の形で公刊している。これらの論文で展開された考えの多くは、いまなお言語哲学の中心問題をなすものである。論理学からの算術の導出を実際に遂行すべき彼の主著『算術の基本法則』Grundgesetze der Arithmetikは、第1巻が1893年に、第2巻が1903年に出版された。ところが、第2巻の出版直前に、自分の体系が自己矛盾を含むことをラッセルからの手紙によって知らされた。以後、矛盾を回避する方策を探したが、ついには論理学からの算術の導出という基本思想を放棄するに至り、失意のうちに没した。
[飯田 隆]
『石本新編『論理思想の革命』(1972・東海大学出版会)』▽『野本和幸「G・フレーゲの存在論」(『思想』第596号所収・1974・岩波書店)』
ドイツの数学者,論理学者,哲学者。ドイツ東部のウィスマルに生まれ,イェーナ大学,ゲッティンゲン大学で自然科学,数学,哲学を学び,1873年数学で学位をとる。そののち,1918年までイェーナ大学で数学を講じた。その関心は早くから数学の基礎に向けられ,当時の数学者,哲学者と盛んに交流したが,その見解は広く受け入れられなかった。しかし,算術を論理から導くといういわゆる論理主義の立場をとり,それを正当化しようという思索の成果は,20世紀の哲学に大きく貢献している。論理主義実現のために論理学自体の再検討が必要となり,その結果,現代の命題計算,一階述語計算のほぼ完全な体系を独立で構成し,アリストテレス以来の伝統論理をはじめて実質的に超える論理学を《概念記法》(1879)として提出した。次に,数の概念の哲学的考察に向かい,その考察をまとめた《算術の基礎》(1884)では,カントを批判して算術の真理を分析的なものとし,悟性に直接与えられる客観的な対象として数を定義する方法を探った。しかし,この定義を実現したかに思われた《算術の根本法則》第1巻(1893)の体系は,1902年ラッセルの指摘を契機とする再検討の結果,いわゆる〈ラッセルのパラドックス〉を含むとされた。フレーゲは論理主義の放棄を強いられ,晩年には算術の真理を総合的なものとする立場から再度基礎づけを試みた。このように,現代の数学基礎論,論理学の基礎を築いただけでなく,厳密で形式的に隙のない体系を求めて営まれた記号,言語に関する考察は,現代の言語理論の出発点となっている。ウィトゲンシュタインの思索はその圧倒的な影響下にあり,また,同時代の主流であった心理学主義的,形式主義的,物理主義的な数学論,意味論を批判して,言語使用を人間的行為としてとらえその中で記号の意味とそれが指し示すものを区別する意味論を提出した。
執筆者:土屋 俊
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…ブールによる論理学の数学化・記号化の試みは,一方においてはブール代数という形でコンピューターの基礎理論にまで発展し,他方では記号論理学という形で現代最新の論理学にまで発展する。後者についていえば,ブール以後の発展にとりわけ寄与した仕事はドイツの論理学者G.フレーゲが1879年に出した《記号を使った論理学》であり,イギリスの論理学者B.A.W.ラッセルとA.N.ホワイトヘッドの両人が1910年に出した《プリンキピア・マテマティカ》全3巻の第1巻である。そこには命題論理学をはじめ,古代や中世にはなかった限量論理学や関係論理学も含まれており,たいそう豊かなものとなっている。…
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