日本大百科全書(ニッポニカ) 「カレドニア造山帯」の意味・わかりやすい解説
カレドニア造山帯
かれどにあぞうざんたい
アイルランド、スコットランド、ウェールズ、イングランド北西部からスカンジナビア半島西部にかけて北東―南西方向に延びる古期古生代の造山帯。カレドニアCaledoniaはスコットランドの古名である。北西端はモイン衝上(しょうじょう)断層によって広義のカナダ楯状地(たてじょうち)の一部であるエリア(ヘブリディーズ)と接し、南東端はバルト楯状地と接している。現在は大西洋が拡大して互いに隔たっているが、成立時には北アメリカのアパラチア造山帯およびグリーンランド東部やスピッツベルゲン(スバールバル)島に接続していたといわれる。
先カンブリア時代後期から古生代デボン紀中期にかけて一連の変動を受けた。先カンブリア時代末期にカドミアン変動があり、ウェールズ地方では大量の酸性火山活動があった(この変動をカレドニア造山運動から除く考えもある)。主として古生代オルドビス紀前期のグランピアン変動によって北西部高地(スコティッシュハイランド)は変形、変成を受けた。南東部でも火山活動などが知られている。シルル紀末期~デボン紀中期には、南東部を中心に広域にわたって、劈開(へきかい)や衝上断層の形成を伴う激しい褶曲(しゅうきょく)作用があった。スカンジナビア西部では広域変成作用も認められる。これを狭義のカレドニア変動(主変動)という。デボン紀初期には花崗(かこう)岩類の貫入もあった。
カレドニア造山帯は、模式地であるイギリスを例にとると、グラスゴー付近のミッドランドバレーを境に北西部の変成帯と南東部の非変成帯とに大別できる。北西部地帯は、始生代の片麻(へんま)岩グラニュライトを基盤とし、先カンブリア時代末期のモイン変成岩や、オルドビス紀前期まで及ぶダルラディアン変成岩からなる。モイン変成岩の原岩はデルタ性の砂質岩で、ダルラディアン変成岩は厚いタービダイト(混濁流によって堆積した地層)相で代表される。南東部地帯は、古生代後期の模式的な層序が発達していることで有名である。主としてタービダイトからなるが、オルドビス紀には火山岩層も卓越する。ウェールズの堆積(たいせき)盆縁辺部では腕足貝や三葉虫(さんようちゅう)化石を産出する貝殻相が、また中心部では筆石相が発達する。カレドニア造山運動によって褶曲や断層の影響を受けた地層は、後造山期堆積物(モラッセ)であるデボン紀の非海成旧赤色砂岩層に不整合に覆われた。
[岩松 暉・村田明広]