モラッセ(読み)もらっせ(その他表記)molasse

日本大百科全書(ニッポニカ) 「モラッセ」の意味・わかりやすい解説

モラッセ(地学)
もらっせ
molasse

ヨーロッパ・アルプス北縁部に分布する新生代古第三紀漸新世から新第三紀中新世にかけての大部分非海成の地層で、斜交層理のよく発達する礫(れき)岩、砂岩泥岩からなる。石炭層や石灰岩層を挟み、砂岩は石灰質であることが多い。フリッシュに比べて砕屑物(さいせつぶつ)は粗粒であり、級化層理は発達せず化石を多く産出する。

 モラッセは造山運動後期に、隆起部から大量の粗粒堆積(たいせき)物がその前縁部にもたらされたものであり、それ以前に堆積したフリッシュよりもさらに造山帯前縁部の位置に堆積している。モラッセとフリッシュは漸移するため区別がむずかしい場合がある。一部のモラッセはフリッシュとともに褶曲(しゅうきょく)・断層の影響を受けており、モラッセを造山運動終了後の堆積物と限定することはできない。アルプス以外でもこのような岩相を示す地層はモラッセ相とよばれ、とくに厚い礫岩からなる地層はそうよばれることが多いが、あいまいに使われている場合も多い。

[村田明広]

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改訂新版 世界大百科事典 「モラッセ」の意味・わかりやすい解説

モラッセ
Molasse[ドイツ]

アルプス地域で漸新世後期~中新世に形成された山地のまわりに堆積した同時代の浅海~陸成層を指す語であったが,地向斜-造山運動に関連させて,アルプス以外の地域でも,造山期またはその直後に新しく生じた山地周辺の浅海や陸域または山間盆地に堆積した厚い浅海~陸成層に対して一般的に用いられるようになった。カレドニア造山運動に対する旧赤色砂岩バリスカン造山運動に対する新赤色砂岩,アルプス造山運動(ヒマラヤ)に対するシワリク層はモラッセの代表例である。いずれも陸成層で赤色またはそれに近い色を示す。このような堆積物形成の原因になった構造運動は,プレートテクトニクスによれば,大陸と大陸,大陸と島弧,島弧と島弧といった陸塊と陸塊との衝突によって山脈を形成する衝突型造山運動である。したがって,モラッセは衝突型造山運動の後期または直後に隆起山地の前面盆地に堆積した浅海~陸成層ということができる。
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百科事典マイペディア 「モラッセ」の意味・わかりやすい解説

モラッセ

もとはヨーロッパアルプスの北側および山間にみられる主として第三紀の礫(れき)岩,砂岩からなる地層の名称であったが,その後それらと同じ特徴をもつ各地のさまざまな時代の地層に対する一般名となった。浅海成から陸成で岩相変化が激しい。地向斜―造山論の発展とともに,これらは地向斜が山地と化した時期(後造山期)に山脈の前縁凹地および山間盆地を山の削剥(さくはく)による砕屑(さいせつ)物が埋めてできた地層で,造山期の堆積層フリッシュと区別されるようになり,地向斜―造山運動の一時期をしめす言葉としても使われるようになった。
→関連項目旧赤色砂岩ヒマラヤ[山脈]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「モラッセ」の意味・わかりやすい解説

モラッセ
molasse

アルプスの砕屑物を主とする厚い古第三紀層。下部海水成モラッセ,下部淡水成モラッセ,上部海水成モラッセ,上部淡水成モラッセに分けられる。フリッシュに対する。フリッシュが造山期の堆積物であるのに対し,モラッセは造山期に形成された山地の激しい削剥作用によって生成された礫,砂,粘土などが雑然として堆積した厚い地層である。日本では中国地方の中生代三畳紀の美禰層群と成羽層群は秋吉造山運動のモラッセ,北海道の新生代新第三紀中新世の川端層群は日高造山運動のモラッセといわれる。モラッセは緑色砂岩を主体とする古第三紀層に対するスイスの方言。

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岩石学辞典 「モラッセ」の解説

モラッセ

長石質の砂岩が石灰質で膠結された岩石.モラッセ相(molasse facies)は構造運動の後の前陸盆地(foredeep)に堆積した,河川作用,三角州,湖沼堆積,時に海底堆積物などのような,著しい破砕の遷移をいう[Bersier : 1958, Petijohn : 1975].

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世界大百科事典(旧版)内のモラッセの言及

【造山運動】より

…地向斜地域の中央部に出現する隆起帯を地背斜,その前面などにできる二次的な沈降域を前縁凹地などと呼ぶ。成長しつつある隆起帯からすぐ近くの局部的な沈降部に供給される堆積物は,礫(れき)など粗粒のものが多く含まれ,モラッセと呼ばれる。なお,花コウ岩の逬入後,引き続いて行われる安山岩など中性の火山活動を続造山時火成活動といっている。…

※「モラッセ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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