β崩壊(読み)ベータホウカイ(英語表記)β decay

デジタル大辞泉 「β崩壊」の意味・読み・例文・類語

ベータ‐ほうかい〔‐ホウクワイ〕【β崩壊/ベータ崩壊】

放射性元素原子核が、電子と反ニュートリノの対、または陽電子とニュートリノの対を放出して、別の原子核に転換する現象。どちらも質量数は変化せず、前者の場合は原子番号が1だけ増加する。後者の場合は1だけ減少するが、天然のものではみられない。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「β崩壊」の意味・わかりやすい解説

β崩壊
べーたほうかい
β decay

原子核がβ線すなわち電子または陽電子を放出して他の原子核に変化する現象。原子核の中の陽子(p)または中性子(n)が、陽電子(e+)または電子(e-)を放出して中性子または陽子に変化する現象である。その際、質量がほとんどゼロで電荷をもたないもう一つの粒子、中性微子(ニュートリノ)が放出される。β崩壊では、崩壊の前後で質量数は変化せず、陽子数を表す原子番号が一つ増加または減少する。β崩壊の過程を式で書くと、電子放出の場合はn→p+e-で、陽電子放出の場合はp→n+e++νである。ここでν(ニュー)、は中性微子とその反粒子を表している。原子の内殻を回っている電子を原子核がとらえる電子捕獲もβ崩壊の一種で、e-+p→n+νと表される。β崩壊をおこす相互作用はきわめて小さい結合定数をもつため、弱い相互作用といわれる。この相互作用のもう一つの特徴は、空間反転に対して不変でなく、パリティ保存則を破っていることである。

 自由な中性子は半減期11.7分でβ崩壊をおこすが、自由な陽子のβ崩壊はエネルギー的に禁止される。人工的につくられた多くの原子核は、β崩壊を経由して安定な原子核へ変わっていく。β崩壊の例を質量数A=14の場合についてに示した。β崩壊は、原子核のエネルギー準位の性質を調べるのに用いられ、また長寿命のものは放射性同位元素ラジオ・アイソトープ)として多様に応用されている。

[池田清美]


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改訂新版 世界大百科事典 「β崩壊」の意味・わかりやすい解説

β崩壊 (ベータほうかい)
β-decay

原子核の放射性崩壊の一種で,放射性同位体が電子e⁻(あるいは陽電子e⁺)と反中性微子ν⁻e(あるいは中性微子νe)とを放出し,質量数は同じであるが原子番号Zの一つだけ異なる核に変化する過程。このとき放出される電子の流れをβ線という。電子を放出するβ⁻崩壊ではZZ+1,また陽電子を放出するβ⁺崩壊ではZZ-1となる。広い意味では陽電子が放出される代わりに軌道電子を吸収し中性微子を出す電子捕獲もβ崩壊に含める。歴史的には,β線の連続エネルギースペクトルを説明するために,W.パウリによって中性微子の存在の仮定が立てられたという事実がある。一般には不安定核のうち,安定核に比べて中性子過剰のものはβ⁻崩壊,中性子不足のものはβ⁺崩壊と電子捕獲をし,その寿命は広い範囲にわたっている。核の励起状態はおもにγ崩壊で基底状態へと遷移していくが,寿命の長い準安定状態の中にはβ崩壊するものも見られる。β崩壊を引き起こすのは弱い相互作用と呼ばれているもので,電磁力や,原子核を結びつけている強い相互作用とは異なる種類の力である。

 なお,β線に関しては1957年,偏極した60Coのβ線の角度分布の非対称性の測定によって,T.リーとC.ヤンの弱い相互作用におけるパリティ非保存仮説が証明されたことは有名である。通常の非偏極核からのβ線は進行方向に偏極していることも確認された。偏極核からのβ線の空間非対称性を利用して不安定核の核磁気共鳴も行われている。
放射性崩壊
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百科事典マイペディア 「β崩壊」の意味・わかりやすい解説

β崩壊【ベータほうかい】

放射性原子核または素粒子が電子と反ニュートリノ,または陽電子とニュートリノを放出して別種の原子核または素粒子にかわる現象。前者をβ(-/)崩壊,後者をβ(+/)崩壊という。核外の軌道電子を核内に捕獲して崩壊する現象(軌道捕獲)を含む。β(-/)崩壊では元素の原子番号が一つ増し,β(+/)崩壊と軌道捕獲では一つ減るが,質量数は変化しない。自然放射性元素(β(+/)崩壊はしない)のほか,ほとんどすべての元素にβ崩壊をする同位体がつくられている。β崩壊の際放出される電子や陽電子のエネルギーは均一でなく,ある範囲にわたって連続的に分布するが,これをβスペクトルという。β崩壊は弱い相互作用によっておこる。
→関連項目ウィークボソン核分裂(物理)γ線中性子β線放射性元素放射能陽電子

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「β崩壊」の意味・わかりやすい解説

β崩壊
ベータほうかい
β-decay

放射性核種がβ線を放出して自然崩壊する過程をいう。β線は電子より成るから,β崩壊によって,もとの原子核は原子番号が1だけ大きく,質量数が同じ原子核に転換する。β崩壊は原子核中の中性子が陽子,電子および反ニュートリノに転換し,陽子は原子核内にとどまり,電子と反ニュートリノとが原子核外に放出される現象である。放射性核種によっては,原子核内の陽子が中性子,陽電子およびニュートリノに転換し,中性子は原子核内にとどまり,陽電子とニュートリノとが原子核外に放出されるものがある。この過程を β+ 崩壊といい,その際にもとの原子核より原子番号が1だけ小さく,質量数の同じ原子核が生じる。また,原子のK軌道にある電子を原子核内の陽子が捕獲して中性子とニュートリノとに転換し,ニュートリノが原子核外に放出されるものもある。この過程をK電子捕獲といい,その際にはもとの原子核より原子番号が1だけ小さく,質量数が同じ原子核に転換する。 β+ 崩壊,K電子捕獲もあわせてβ崩壊と呼ぶこともある。β崩壊をする放射性核種には天然に存在するものも,人工的に製造されたものもある。放出される電子または陽電子の運動エネルギーは数百万 eV ,またはそれ以下で,エネルギーはゼロから核種の種類によって決る最大値まで連続的な値をとる。β崩壊を起す相互作用は,陽子,中性子,電子 (または陽電子) および反ニュートリノ (またはニュートリノ) の間に働く弱い相互作用である。

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化学辞典 第2版 「β崩壊」の解説

β崩壊
ベータホウカイ
β disintergration

負の電子間放出を伴う原子核変換をβ崩壊という.このとき核内の中性子が1個陽子にかわる.正の電子を放出する過程は β 崩壊といい,陽子が1個中性子にかわる.また,陽子が中性子にかわる際に,核から陽電子を放出するかわりに,核外の軌道(おもにK殻)上にある負の電子を吸収する変換(K捕獲)もβ崩壊の一形式である.β崩壊に際しては,電子とともに質量も電荷ももたないニュートリノが放出され,放出電子と運動エネルギーを分かち合っている.これがβ線エネルギーが連続スペクトルをもつ理由である.K捕獲に際しては電子の放出は伴わないので,本来のエネルギーをもったニュートリノが放出されるものと考えられている.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のβ崩壊の言及

【原子核】より

…質量数Aを固定し,結合エネルギーを最大にする陽子数Zを求めると,が得られる。原子核は後に述べるβ崩壊によりAを変えずにZを変えうるから,上にもっとも近い整数値を陽子数とする原子核が安定ということになる。AZとの上の関係を表す曲線はβ安定線と呼ばれ,天然に存在する安定な原子核,あるいは核反応によって作られる寿命の長い原子核はすべてこのβ安定線の近くに限られている。…

【素粒子】より

…フォトンはγで表す。
[β崩壊と中性微子]
 β崩壊(β崩壊)では原子核から電子がとび出し,核の電荷がeだけ増すが,質量はほとんど変わらない。すなわち一見,n―→p+eのような反応であるが,n,p,eはすべてスピン1/2をもつので,これでは角運動量の保存に反する。…

【電子捕獲】より

…原子核の放射性崩壊の一種で,原子核がK電子などの軌道電子を吸収し,よりエネルギー的に安定な核に変化する過程をいう。弱い相互作用による陽子pが電子eを吸収して中性子nに変わり,同時に中性微子νeが放出される過程(p+e―→n+νe)で,広い意味でのβ崩壊に含まれる。電子捕獲では質量数は変化せず,捕獲する電子の負電荷のため原子番号はZからZ-1となり,β崩壊したのと同じ結果になる。…

【放射性崩壊】より

…これを放射性崩壊という。崩壊の種類としてはα崩壊,β崩壊,γ崩壊が古くからよく知られている。α線の放出を伴うα崩壊では,原子番号が2,質量数が4だけ減少する。…

※「β崩壊」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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