中世イギリスの代表的詩人の一人。きまじめな道徳的性格をもって知られ,その作品もきわめて道徳的,教訓的である。同時代の大詩人チョーサーは,友人の彼を,〈道徳的なガワー君〉と呼んだ。最初フランス語(アングロ・ノルマン語)で《人間のかがみ》を,次にラテン語で《呼ばわる者の声》を,最後に英語で《恋人の告解》を書いた。はじめの2作品は痛烈な教会・社会批判であるが,彼の思想・心情は本質的に保守的であり,この点,同時代のラディカルな社会批判を展開した詩人ラングランドとは,一見共通しながらも,異質の詩人であった。《恋人の告解》は,ガワーの傑作で,宮廷風恋愛における〈愛の神〉の宗教に,カトリックの告解形式を取り入れた構想の中で,恋の主題と〈七大罪〉をからみ合わせ,物語と教訓が語られる。途中で脱線して,世界中の宗教論や学問論が展開される。時に冗長,説教臭が鼻につくが,全体的な中世的世界像の表現として,中世イギリス詩の最も重要な作品の一つと言ってよい。
執筆者:安東 伸介
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
イギリスの詩人。ケント州の名家の出身。終生地主として富裕な生活を送り、時の文化の中心である宮廷に出入りし、リチャード2世王の知遇を得た。チョーサーとも親交があり、周囲の尊敬を集めて「道徳的ガワー」とよばれた。晩年失明が伝えられ、ロンドン郊外のサザークSouthwarkの修道院(現、サザーク大聖堂)に葬られ、墓は現存する。ヨーロッパ大陸の伝統文芸に通じ、3か国語を駆使したが、作品は一般に「道徳的」傾向を示す。代表作『恋人の告解』(1390~1393、英語)は、宮廷恋愛と「七つの大罪」の主題を絡ませた構成で、種々の伝説を教訓的に物語る。『瞑想(めいそう)者の鏡』(1376~1379、フランス語)は人の罪深さとマリアの慈悲を説き、『叫ぶ者の声』(1377~1381、ラテン語)は社会の不正、教会の堕落を糾弾する。
[高田康成]
『伊藤正義訳『恋人の告解』(1980・篠崎書林)』
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