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がんの化学療法 がんのかがくりょうほう

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家庭医学館の解説

がんのかがくりょうほう【がんの化学療法】

◎化学療法はどんながんに有効か
◎抗がん剤の効果
◎化学療法の治療目的と効果
◎化学療法の副作用

◎化学療法はどんながんに有効か
●全身性のがんに最適な治療法
 がんの化学療法は、薬剤を用いて、がん細胞の増殖を抑えたり、がん細胞を殺傷することによって、がんを治療しようとする方法です。このがんの治療に用いる薬剤を抗(こう)がん剤(ざい)といいます。
 外科療法や放射線療法が、からだのある部位に限られた固形がんを対象にした局所療法の代表であるのに対して、化学療法は、おもに、からだ全体のがんを対象に治療する全身療法で、注射、内服、点滴(てんてき)などの方法で使用します。
 投与された抗がん剤は、血液に入り、血流にのって全身にゆきわたるので、化学療法は、血液のがんや、固形がんが転移(てんい)して全身に散らばった場合などに、最適な治療手段となります。
●化学療法が有効な場合とは
 化学療法は、主として全身性のがんに効果がありますが、実際には、あらゆるがんの治療に用いられています。とくに効力を発揮しているのは、つぎのような場合です。
①全身的ながんの治療として
 最初から全身的に発病するため、外科療法や放射線療法などの局所療法が行ないにくいがんに使われます。白血病(はっけつびょう)などの血液のがんや、リンパ系のがんである悪性リンパ腫(しゅ)などに対しては、最善の治療法の1つです。
 また、固形がんが進行し、血液やリンパ液を経由して全身の臓器や組織に転移した場合には、手術で病巣を摘出(てきしゅつ)するのには限界があります。このケースでは、抗がん剤を使う以外に方法がない場合があります。
②術前・術後の補助化学療法として
 外科療法や放射線療法の前後に、がんが全身に転移している可能性がある場合などに、集学的治療(しゅうがくてきちりょう)として抗がん剤が使用されます。
 手術によってがんが取り切れたと判断された場合でも、目に見えない微小ながんが残っていて、後日、再発することがあります。そのような危険性があると予想される場合などに、がん細胞を根絶するため、手術後、抗がん剤による治療を行なうのです。
③特殊な使用法による治療として
 化学療法薬の新しい使用法が研究され、適切な薬剤を用いることによって大きな成果が認められています。
 白血病などの血液のがん、乳がん、卵巣(らんそう)がんなどに抗がん剤の大量投与を併用する骨髄移植(こつずいいしょく)(「骨髄移植」)や末梢血幹細胞移植(まっしょうけつかんさいぼういしょく)(骨髄移植の「骨髄移植の方法と効力」の末梢血幹細胞移植)が良好な成績をあげています。
 肝(かん)がんなどの病巣に対する局所療法としては、抗がん剤を注入する動注療法(どうちゅうりょうほう)(「がんの動注療法」)やエタノールアルコールの一種)を注入するエタノール注入療法(ちゅうにゅうりょうほう)(コラムエタノール注入療法(PEIT)」)が効果的です。
 また、消化器のがんや卵巣がんを手術で摘出した後、腹腔(ふくくう)内に抗がん剤を注入して、残っている微小がんやがん性体腔液(たいくうえき)(腹水(ふくすい))を消失させようとする腹腔内化学療法(ふくくうないかがくりょうほう)も注目されています。
 最近の話題としては、オールトランス型レチノイン酸(ATRA)というビタミンAの誘導体を使って治療する分化誘導療法(ぶんかゆうどうりょうほう)があります。ふつう、細胞は属している臓器や組織の一部として機能できるように分化(成長)します。ところが、がん化した細胞は分化せず、増殖(ぞうしょく)するだけです。このがん細胞を、分化誘導剤を使って分化する軌道にのせ、正常な細胞に戻すようにするのが分化誘導療法です。急性白血病などで用いられ、副作用が少なく、高齢者にも使える療法として期待されています。

◎抗がん剤の効果
●抗がん剤はなぜ効くか
 がん細胞は、正常細胞と同じく、基本的にたんぱく質でできていて、分裂によって増殖していきます。抗がん剤が効くのは、がん細胞中の遺伝情報を伝えるDNAやRNAの合成を阻害(そがい)したり、がん細胞が分裂して増殖するのを阻止するからだと考えられています。
 そして、がん細胞の分裂が活発になり、増殖速度の速い状態(増殖期)のときほど、抗がん剤の影響を受けやすいので、増殖速度の速い血液のがんにはとくに効果が高いとされています。
 ただし、抗がん剤ががんに効くしくみは一様ではなく、まだ十分に解明されているわけではありません。
 また、抗がん剤は多くの場合、大量にかつ長時間作用させるほど、がん細胞を殺す効果が高くなりますが、正常細胞も同じように影響を受けるため、副作用がおきて患者さんのからだに苦痛を与えてしまいます。
 そこで、正常な細胞になるべく害を与えず、がん細胞だけを殺す力をもつ抗がん剤の研究がなされ、現在では、治療効果の高い抗がん剤がいくつも開発されています。
●抗がん剤による治療法の進歩
 40数年前に最初の抗がん剤が発見されて以来、多くの抗がん剤が開発されてきました。抗がん剤による治療成績もこの間に大きく進歩し、かつて不治の病といわれた急性白血病その他の難病も、治癒(ちゆ)可能となっています。
 その理由の第1は、新しい有効な抗がん剤が次々と発見されたことです。
 第2は、いくつかの抗がん剤を組み合わせてより高い効果を得る併用療法が進歩したことです。現在では、抗がん剤が1種類だけの単独で用いられるケースは少なく、この、複数で用いる多剤併用療法(たざいへいようりょうほう)が主流となっています。
 理由の第3には、がんにともなういろいろな合併症を治療したり、抗がん剤の副作用を管理する方法(支持療法(しじりょうほう))が発達して、化学療法が安全に行なえるようになったことがあげられます。

◎化学療法の治療目的と効果
 がんの化学療法の最終目標は、がんの治癒ですが、治癒が不可能なときは患者さんの延命(えんめい)が目的になります。同時に、がんにともなう痛みや呼吸困難を和らげるなど、いろいろな症状を改善します。
●化学療法で治癒可能ながん
 現在、進行したがんでも、化学療法だけで治癒する可能性があるとされているものをあげてみましょう。
①急性白血病
 血液のがんである小児急性リンパ性白血病は、化学療法で治癒可能な代表的ながんで、5年生存率(治癒率)が60%以上という治療成績があがっています。
 成人の急性骨髄性白血病(きゅうせいこつずいせいはっけつびょう)には、かつては有効な抗がん剤がなかったのですが、現在、ダウノマイシンやイダルビシンを含む多剤併用療法で、75%以上の人の白血病細胞が完全に消失し、治癒率も40%以上に増加しつつあります。
 また、オールトランス型レチノイン酸(ATRA)を用いる分化誘導療法(「化学療法はどんながんに有効か」の③特殊な使用法による治療として)では、急性前骨髄球性白血病(きゅうせいぜんこつずいきゅうせいはっけつびょう)の90%以上で白血病細胞が消失し、60%以上が治癒すると考えられています。
②悪性リンパ腫(しゅ)
 白血球の1つであるリンパ球ががん化したもので、おもにリンパ節から発生します。ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫があり、そのうち、ホジキンリンパ腫は欧米に多く、日本ではわりあい頻度(ひんど)の低いがんですが、60%以上の治癒率があります。
 非ホジキンリンパ腫は日本に多い型で、従来はホジキンリンパ腫に比べると化学療法が効きにくいがんでしたが、現在では、アドリアマイシン、ビンクリスチンなどを含む多剤併用療法で、60~70%にがん細胞の完全消失が認められ、治癒率も40%程度にあがっています。
③精巣腫瘍(せいそうしゅよう)
 精巣(睾丸(こうがん))腫瘍は、成人のがんのなかでは化学療法が最高の治癒率を示すがんです。シスプラチンを中心とする多剤併用療法で60%以上の治癒率を示しています。
④小細胞肺がん
 肺がんのうち、組織型のうえで小細胞肺がんとして分類されるがんは、進行が速く悪性度が高いとされますが、他の非小細胞肺がんに比べて化学療法がよく効きます。
⑤女性特有のがん
 女性のがんでは、絨毛(じゅうもう)がんが化学療法によりほぼ100%に近い治癒率を示し、卵巣(らんそう)がんでも40%以上にがん細胞の完全消失が認められます。
 また、子宮頸(しきゅうけい)がんは手術や放射線療法で治癒が可能な代表的ながんですが、再発して進行した場合でも、抗がん剤の多剤併用療法で治癒する可能性が出てきました。
 乳がんも、有効な抗がん剤が多く、多剤併用療法が行なわれています。近年は、自家骨髄移植(じかこつずいいしょく)(抗がん剤で障害を受けやすい骨髄幹細胞を前もって採取、冷凍保存しておき、治療後にからだに戻す治療法(「骨髄移植」))と併用した大量化学療法によって、長期生存ができるようになっています。
●延命(えんめい)を目的として治療するがん
 進行したがんでは治癒を期待するのはむりですが、化学療法でがんをコントロールしつつ、健康な人と変わらない日常生活を送り、しかも長期に生存できるようになった例も増えています。
 頭頸部(とうけいぶ)がんは、外科療法や放射線療法の前にシスプラチンを含む多剤併用療法を行なうことによって、治癒の可能性も期待できます。
 膀胱(ぼうこう)がんは、シスプラチンを中心とする多剤併用療法が有効です。
 その他、同様の治療成績が得られるものには、多発性骨髄腫(たはつせいこつずいしゅ)、慢性白血病、前立腺(ぜんりつせん)がんなどがあります。
 また、化学療法の効きにくいがんに、発生頻度の高い胃がん、大腸(だいちょう)がん、非小細胞肺がんなどがありますが、外科療法や放射線療法と併用して術前・術後補助化学療法を行なうことなどで、がんの縮小や再発予防の効果をあげています。

◎化学療法の副作用
 がん細胞だけを損傷し、正常細胞に作用しない抗がん剤の研究が行なわれていますが、現在ではまだ、副作用のない抗がん剤はなく、副作用を防ぐための確実な方法もありません。ただし、抗がん剤は生命にかかわる病気の治療が目的ですから、むしろ副作用があっても、がん細胞を十分効果的に破壊できるのなら、よい薬だといえます。
●おもな副作用と対策
①血液への副作用
 もっとも頻度が高い副作用は血液の障害で、なかでも白血球が減少することが多く、白血球を増やすために、G‐CSF(造血因子)を用いたり、白血球の輸血を行ないます。また、細菌感染のおそれがあるので、感染を防ぐために抗生物質を使用したり、無菌室(クリーンルーム)を用いて治療します。
 また、血小板(けっしょうばん)が減少して出血した場合は止血剤の使用や血小板輸血を行ない、血色素が減少して貧血がおこったときは、鉄剤やビタミン剤を与えたり、赤血球輸血を行なって治療します。
②胃腸への副作用
 食欲不振、悪心(おしん)、嘔吐(おうと)、下痢(げり)などの胃腸症状も頻度の高い副作用です。胃腸症状の現われる程度は個人差が大きく、抗がん剤によってもちがいますが、症状によりいろいろな制吐薬(せいとやく)、胃腸薬が使われます。症状が激しい場合は点滴(てんてき)を行ないます。
③そのほかの副作用
 手足がしびれ、進行すると感覚がなくなるような神経障害がおこることがありますが、薬の使用を減らしたり、一時中止します。
 ブレオマイシンなどの特殊な抗がん剤を使用すると、肺機能が低下することがあります。早期に発見し、ステロイド薬(副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン薬)などで治します。
 アドリアマイシンの副作用に心臓障害がありますが、総使用量を制限して、不整脈(ふせいみゃく)や心不全を予防します。
 肝機能(かんきのう)障害として、GOTやGPT(「GOT(AST)/GPT(ALT)(血清トランスアミナーゼ)」)の値が上昇した場合は、薬の使用を一時中止し、安静にしてビタミン剤などを服用します。
 腎(じん)機能障害をおこすシスプラチンや出血性膀胱炎(しゅっけつせいぼうこうえん)をおこすエンドキサンの副作用の予防には、水分の補給や利尿薬(りにょうやく)で、尿量を増やすようにします。
 脱毛は、美容上、不愉快な副作用ですが、抗がん剤を中止すれば、3~6か月でもとに戻ります。その他、口内炎、皮膚の色素沈着や硬化、爪(つめ)の変化なども、中止すれば治ります。
●副作用の治療は可能
 抗がん剤の副作用はすべて可逆性(使用を中止すれば治まる)で、治療が可能です。実際の治療には、病人が副作用に十分耐えることができて、なおかつ十分に効果のある抗がん剤だけが用いられています。
 がんの化学療法は、抗がん剤の効果や副作用を熟知している専門医が行なえば、非常に安全な治療法です。とくに通院治療の場合は、つねに主治医と連絡を欠かさないことです。知らせたほうがよいという症状が現われたら、すぐに電話連絡して指示を受けましょう。

出典|小学館
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