ガンピ (雁皮)
Diplomorpha sikokiana(Fr.et Sav.)Honda
日当りのよい浅山に生えるジンチョウゲ科の落葉低木で,和紙の原料植物として知られる。カミノキともいう。高さ2mぐらいで,幹の樹皮はサクラのはだに似る。細かく分枝し,毎年の新枝は前年枝の中ほどから伸びる。若枝,葉,花は絹毛を帯びる。葉は2列状に互生し,卵形で先は細まり,長さ2~6cm。5~6月ごろ枝端に10花前後の頭状花序をつける。花は花弁を欠き,淡黄色の萼筒は長さ約8mm,上縁は4裂し,筒部の内側に8本のおしべが2列につき,めしべの基部に鱗片状の花盤がある。秋に乾果を結ぶ。静岡・石川両県以西の本州・四国と佐賀県有田の黒髪山にのみ分布する。近縁のサクラガンピD.pauciflora(Fr.et Sav.)Nakaiが伊豆半島,シマサクラガンピD.yakushimensis(Nakai)Masam.とオオシマガンピD.phymatoglossa(Koidz.)Nakaiが九州中・南部と奄美大島に分布する。また近畿以西鹿児島県までと朝鮮南部には葉が対生で,各部のほぼ無毛のキガンピD.trichotoma(Thunb.)Nakaiがある。
ガンピ類の樹皮の靱皮繊維はきわめて強靱で,古くから和紙の原料とされてきた。この雁皮紙の抄造は奈良時代に始まったといわれ,光沢があり丈夫で虫害にも強いので,昔は重要文書や金札に使ったが,薄く透明で湿った状態にも強いので,近年では紙幣,鳥の子紙,謄写用紙などにも賞用された。ガンピは古名〈かにひ〉の転訛したものといわれ,また延喜式によると,九州ではこの類を総じて〈ひ〉といったらしい。ガンピは一般に栽培がむずかしく,主として野生株から採皮するので,製紙原料としては特殊な用途にかぎられた。
執筆者:濱谷 稔夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
ガンピ(雁皮)
がんぴ / 雁皮
[学] Diplomorpha sikokiana Honda
ジンチョウゲ科(APG分類:ジンチョウゲ科)の落葉低木。高さ約2メートル。葉は互生し、先のとがった卵形で長さ2~4センチメートル、両面に白毛が密生する。初夏、新枝の先に数個ないし10個の黄色の小花をつける。花冠状のものは萼(がく)で、先が4裂し直径約6ミリメートル、基部は筒状で長さ約1センチメートル。暖地の山中に生え、静岡県以西の本州、四国、九州北部に分布する。樹皮から靭皮(じんぴ)繊維をとり、製紙原料とする。繊維は長さ約3ミリメートル。水にさらして漉(す)いたものが雁皮紙で、淡黄色で卵の殻色のようなところから鳥の子紙ともよばれる。栽培が困難で、製紙には野生のものを利用してきたが、現在、紙の生産はごくわずかである。近縁種で、雁皮紙の原料となるものに、近畿地方以西に分布し、葉が無毛で対生するキガンピD. trichotoma Nakai、伊豆、箱根付近に分布するサクラガンピD. pauciflora Nakai et Sav.などがある。
[星川清親 2020年10月16日]
ガンピ(岩菲)
がんぴ / 岩菲
[学] Silene banksia (Meerb.) Mabb.
Lychnis coronata Thunb.
ナデシコ科(APG分類:ナデシコ科)の耐寒性多年草。ガンピセンノウともいう。中国原産で江戸時代に渡来し、庭に植え、鉢植えや切り花にされる。高さ40~80センチメートル。全株無毛で株立ちとなる。茎の下部数節は包葉となる。節はすこし隆起する。葉は交互に対生して無柄で、卵状楕円(だえん)形で先はとがり、もろい。5~6月ごろ茎頂と上部の葉腋(ようえき)に径約5センチメートルの5弁花をつける。花柄は短く、花の下には対生した披針(ひしん)形の包葉が数枚ある。萼(がく)は厚い長棍棒(こんぼう)状で先が5裂する。花弁の基部は細く、平開するくさび状の花弁との境に小さい2鱗片(りんぺん)がある。弁の上縁は鋭く不規則に浅裂する。花色は普通は黄赤色で白色や絞りもある。腐植質の多い排水のよい乾きすぎない所に植えるとよい。株分け、挿木、実生(みしょう)で殖やす。
[吉江清朗 2021年1月21日]
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ガンピ(雁皮)【ガンピ】
本州中部〜佐賀県の暖地の山中にはえるジンチョウゲ科の落葉低木。樹皮はなめらかで,若枝や卵形の葉には白い絹毛がある。葉は互生し,卵形。初夏,若枝の先に頭状花序をつけ,淡黄色の小花が集まって開く。萼(がく)は筒形で先が4裂し,長さ約8mm,花弁はない。樹皮の繊維はきわめて強く,雁皮紙その他の和紙が作られる。
→関連項目唐紙|鳥の子紙|和紙
ガンピ(岩韮)【ガンピ】
中国原産のナデシコ科の多年草。観賞草花として古くから植栽されるが,現在栽培は少ない。全株無毛で,束生する茎は直立し,高さ40〜90cmになる。茎の頂部,葉腋に5〜6月,径4cmくらいのフシグロセンノウに似た朱赤色の美しい花を次々に開く。葉は対生。ふつう春に株分けでふやす。
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ガンピ(雁皮)
ガンピ
Wikstroemia sikokiana
ジンチョウゲ科の落葉低木。西日本の暖地の山地に生じる。高さ 1.5mで幹は直立分枝する。葉は互生し,葉柄は短く,卵形で全縁,表裏ともに絹毛におおわれる。初夏の頃,その年に出た枝の先端に,黄色の小花を 10個ほど球状に集めてつける。萼は下部が筒形で上部は4裂し,おしべ8本,めしべ1本があって,果実は宿存萼を伴う痩果となる。樹皮の繊維を上質の和紙,雁皮紙の原料とした。このため乱伐され,現在は野生のものは少い。
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世界大百科事典(旧版)内のガンピの言及
【センノウ(仙翁)】より
… センノウの仲間は花の美しいものが多く,いくつかが観賞用に栽植されている。ガンピL.coronata Thunb.はセンノウに比べ,葉の幅がより広く,花弁の先は浅い数多くの裂片に切れ込む。ムギセンノウAgrostemma githago L.(英名corn cockle,corn campion,crown‐of‐the‐field,corn rose,rose campion)はヨーロッパ原産の一年草で,ときにセンノウ属に入れられることもある。…
【雁皮紙】より
…ガンピを原料とする紙で,[楮紙](こうぞがみ)とともに和紙を代表する。数量では楮紙より劣るが,光沢のある紙で虫害が少なく,長い保存力をもつ点から高い評価を受け,料紙など高級紙に活用されてきた。…
※「ガンピ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」