雁皮紙
がんぴし
日本の暖地に自生するガンピ(雁皮)の靭皮(じんぴ)繊維を原料とする和紙。ガンピは栽培が非常にむずかしいが、繊維が良質なため奈良時代から製紙に利用されてきた。『正倉院文書』や『延喜式(えんぎしき)』にみられる斐紙(ひし)は、ガンピや同じジンチョウゲ科のコガンピ、トサガンピ、ミヤマガンピ、キガンピ、オニシバリなどのほか、おそらくミツマタ(当時はサキクサといった)も原料としていた。麻紙(まし)や楮紙(こうぞがみ)は、古代中国や朝鮮半島でも早くから漉(す)かれていたが、とくに雁皮紙は「紙の王」とたたえられる風格をもった日本の特産である。中世以降の鳥の子紙や修善寺紙(しゅぜんじがみ)も同系統で、海外においても名声を博している。
ガンピの繊維は繊細で均整がとれており、光沢があって粘性に富む。草丈(くさたけ)約2メートルの枝条を刈り取り、外皮を生(なま)はぎにして黒皮とするが、これを処理して紙とするまでの工程はコウゾ(楮)の場合と同様である。ガンピ繊維の粘性は、ヘミセルロースの含有量の多さに基づき、その化学構造はネリに用いるトロロアオイやノリウツギの粘質物と酷似している。また和紙抄造の際、繊維の叩解(こうかい)を速めて水中での繊維の均一分散を助け、簀(す)からの水漏れを遅らせて絡み合いを強め、地合いのよい強靭(きょうじん)な紙をつくるのに効果がある。コウゾなどの他繊維に混合抄紙した場合でも、その粘滑作用を発揮する。植物性粘液のネリを利用する日本独特の流し漉き法が考案された契機は、雁皮紙(斐紙)の製造から得られたものと考えられている。雁皮紙は質が密で、インクでもにじまない。
[町田誠之]
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雁皮紙【がんぴし】
ガンピを原料とした強靭(きょうじん)で,美しい光沢がある薄い手すき和紙。奈良時代には斐紙(ひし)と呼ばれ,すでに写経に用いられていた。また平安時代には,とくに宮廷の女性たちの間で薄手の雁皮紙である薄様が染色されたうえ,懐紙などとして愛好された。明治時代以降は謄写版原紙,複写,図引きなどに使用された。現在では民芸紙としてその風合を楽しむ用途に使われている。主産地は岐阜・高知・静岡各県など。→紙
→関連項目生漉紙
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がんぴ‐し【雁皮紙】
〘名〙 和紙の一つ。ガンピのじん皮を原料とする手すき紙の総称。古くは斐紙
(ひし)。紙質の薄いものを薄様
(うすよう)といい、
厚様(あつよう)は
鳥の子と呼ばれた。
古来から紙の王と称され、その強い紙質、高尚な肌合い、程よい光沢が喜ばれた。薄様は謄写版原紙や複写用に、鳥の子は高級印刷物などに用いられる。
がんぴ。
※洒落本・やまあらし(1808)一「そこに厂皮紙(ガンヒシ)があるから、なんなら返簡をかいておきなせへ」
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雁皮紙
がんぴし
ジンチョウゲ科の落葉低木のガンピの繊維を原料とした強靭で美麗な光沢のある薄葉紙。古くは斐紙と呼ばれた。用途は木版の版木用写図,絵画の粉本,謄写版原紙など。近年複写機の普及により生産,使用量とも激減した。また箔打紙,襖の下張り用の間似合紙,金糸・銀糸の地紙用などの特殊用途や民芸品,書道用紙の一部として用いられている。通常手すきであるが,機械ずきもある。岐阜と高知の両県で産する。
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雁皮紙
「がんぴし」と読む.ジンチョウゲ科の植物であるガンピの靭皮繊維を主原料として漉かれた和紙.半透明で光沢のある高級紙で,耐久性に優れ,虫害を受けにくい特徴がある.
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デジタル大辞泉
「雁皮紙」の意味・読み・例文・類語
がんぴ‐し【×雁皮紙】
ガンピの靭皮繊維を原料とした和紙。質は密で光沢があり、湿気・虫害にも強く、古来「紙の王」とよばれて珍重される。鳥の子紙も同系統。斐紙。
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がんぴし【雁皮紙】
ガンピを原料とする紙で,楮紙(こうぞがみ)とともに和紙を代表する。数量では楮紙より劣るが,光沢のある紙で虫害が少なく,長い保存力をもつ点から高い評価を受け,料紙など高級紙に活用されてきた。ガンピはジンチョウゲ科に属し,その繊維はおよそ2.5~5mm程度でコウゾより短いがミツマタよりは長く,細く半透明で光沢に富み,緻密(ちみつ)でねばりのある性質がそのまま紙に現れている。ガンピにはキガンピ,サクラガンピなど種類が多いが,いずれも栽培が困難なので野生のものを採集している。
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世界大百科事典内の雁皮紙の言及
【薄様】より
…非常に薄い雁皮(がんぴ)紙を指し,薄葉,薄用などとも書く。平安時代から用いられてきた名称であるが,本来,紙の厚さを指す言葉なので,厚様(あつよう)・中様(ちゆうよう)などという表現もある。…
【鳥の子紙】より
…中世につくられた雁皮(がんぴ)を主原料とした紙で,雁皮紙を代表する紙名といえる。鳥の子の名称は嘉暦年間(1326‐29)に初出する。…
※「雁皮紙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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