改訂新版 世界大百科事典 の解説
ニホンジュウケツキュウチュウ (日本住血吸虫)
Schistosoma japonicum
扁形動物吸虫綱住血吸虫科Schistosomatidaeに属する寄生虫。1904年桂田富士郎が山梨県大鎌田村(現,甲府市)で飼育されていたネコの門脈から1雄虫を発見したのが世界最初のものである。しかし,1973年,74年に発掘された中国の馬王堆漢墓から出土したミイラ(2100年前に死亡したと推定される貴婦人の遺体であるという)の肝臓からこのキュウチュウの虫卵が発見されており,古くからこの寄生虫がアジア地域に蔓延(まんえん)していたものと考えられる。現在では,中国大陸,フィリピンなどに流行地がある。日本では,かつて甲府盆地,静岡県沼津地方,利根川流域,広島県片山地方,筑後川流域などに流行がみられたが,77年以後,最後の流行地,山梨県でも新しい感染者は出ていない。
中間宿主はカタヤマガイ(ミヤイリガイ)と呼ばれる水陸両生の小巻貝で,その体内で形成されたケルカリアが皮膚を貫いて侵入してヒトに感染する。他のキュウチュウ類と異なり雌雄異体で,成虫は門脈系静脈内で雌雄が抱合して寄生する。雌虫は暗褐色,糸状で,体長22mm,最大幅径0.3mm。雄虫はこれより太く,灰白色で,体長8~19mm,前体部は短円筒形であるが,腹吸盤より後体部は扁平となって両側が腹面に向かって鞘状に巻き,抱雌管を形成する。感染後4週目ころから産卵が開始されるが,虫卵は腸壁のほか,肝臓,脳その他の組織の毛細血管を栓塞し,内部にはやがてミラキジウムが形成される。このような成熟卵からは組織融解性物質または抗原性物質,好酸球遊走物質などが分泌され,虫卵周囲に細胞浸潤をきたして,いわゆる虫卵結節ができる。腸壁では,そこに細菌による二次感染や粘膜組織の壊死が起こって虫卵は腸腔内に脱落し,それが糞便とともに排出されるが,肝臓では虫卵結節から繊維化が始まり,やがて肝繊維症から肝硬変へと発展する。したがって,日本住血吸虫症の症状としては,ケルカリア侵入時には皮膚炎(かぶれ),産卵期には発熱,腹痛,粘血便などの腸症状,慢性期には門脈圧亢進,脾腫,腹水貯留,貧血,やせなどが認められる。また虫卵が脳の静脈内で発育,栓塞して,てんかん様の症状を起こすこともある。
治療には,有機アンチモン製剤(商品名スチブナール)の静脈内注射,プラジクァンテル(商品名ビルトリサイド)の経口投与などがある。
執筆者:小島 荘明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報