ギッシング(読み)ぎっしんぐ(英語表記)George Gissing

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ギッシング」の意味・わかりやすい解説

ギッシング
Gissing, George Robert

[生]1857.11.22. ウェークフィールド
[没]1903.12.28. フランス,サンジャンドリュズ
イギリスの小説家,随筆家。中流下層の生活の写実的描写で知られる。薬剤師の家に生れ,幼児より秀才の名高く,奨学金を得てマンチェスター大学に学んだ。2度の不幸な結婚が原因で放浪生活をおくり,極度の貧困を経験した。 21歳頃から小説家を志し,『暁の労働者』 Workers in the Dawn (1880) で文壇に登場。そののち『群衆』 Demos (86) ,『どん底』 The Nether World (89) ,『新三文文士街』 New Grub Street (91) ,『漂泊の身』 Born in Exile (92) などで,自己の体験に基づいて,零落した知識階級の貧しい生活を微細に描き,イギリス自然主義文学の代表者と目されるにいたった。ギッシングは下層生活の醜悪さを描いたけれども,社会主義には共感せず,むしろ悲観主義に傾き,後年にいたるに従って,ますます古典的教養の世界に憧れるようになった。イタリアに遊んだ際の『イオニア海のほとり』 By the Ionian Sea (1901) ,フランスに移り住んで,やや生活の安定を得た頃の自伝的随想ヘンリー・ライクロフトの私記』 The Private Papers of Henry Ryecroft (03) は,彼の随筆家としての才能を示すもの。評論としては『チャールズ・ディケンズ論』 Charles Dickens: a Critical Study (1898) が名高い。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ギッシング」の意味・わかりやすい解説

ギッシング
ぎっしんぐ
George Gissing
(1857―1903)

イギリスの小説家。ウェークフィールドの薬剤師の子として生まれる。子供のころから秀才の誉れが高かったが、不幸な結婚ののち長い間ロンドンの裏街で極貧の文士生活を送った。19世紀末の社会の日陰の面をリアルに描いた小説を書いたために、わずかな識者からは高く評価されたが、一般文壇からは完全に黙殺された。二十数年間に26の作品を世に出したが、代表作『三文文士(さんもんぶんし)』(1891)は、彼のような誠実な文学者の苦しみと悲惨な境遇を描いた小説である。『群衆』(1886)を書いたときに、思わぬ収入を得て、若いころからあこがれていた古典の故郷のギリシア、イタリアを訪れることができたが、晩年健康に恵まれず、保養のために移り住んだ南フランスで46歳の生涯を閉じた。『ディケンズ論』(1898)、晩年の自伝的エッセイ集『ヘンリー・ライクロフトの私記』(1903)、『蜘蛛(くも)の巣の家』(1906)はよく知られている。第二次世界大戦後、再評価の気運が高まりつつある。

[小池 滋]

『土井治訳『三文文士』(1969・北沢図書出版)』

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