アメリカの物理学者、理論化学者。化学ポテンシャル、ギブス自由エネルギー、エンタルピーなどの諸概念、相律など、熱力学の理論体系定式化への貢献と、アンサンブル概念に基づく今日の統計力学の理論体系の基礎を与えた業績で知られる。2月11日コネティカット州ニュー・ヘブンに生まれる。1858年エール大学卒業後ヨーロッパに留学、パリ、ベルリン、ハイデルベルクで研究し、1869年帰国、1871年から生涯エール大学数理物理学教授を務めた。1903年4月28日没。
ギブスの熱力学研究は1873年に始まる。1876~1878年にその代表的論文『不均一物質の平衡について』を発表した。このなかで、化学ポテンシャル、熱力学ポテンシャル(ギブス自由エネルギー)、エンタルピーなど今日用いられる基本的熱力学諸量が提起され、それを用いて、不均一物質系の平衡条件などが一般的に論じられた。そして不均一混合系の化学平衡は各成分物質に対する化学ポテンシャルが等しいときに成立することが示され、そこから、相律の概念も初めて提起された。以上のギブスの仕事は、平衡論的熱力学の全理論体系の基礎をつくりあげたというべきものであるが、その意義はすぐには認められず、ドイツの物理化学者F・W・オストワルトが1892年にギブス論文のドイツ語訳を出版して、ようやく広く真価が認められるようになった。ギブスの熱力学での業績は当時おこりつつあった物理化学の発展に一時期を画するものとなり、相律は冶金(やきん)学、ケイ酸塩工業などに欠かせぬものとなった。
統計力学は、量子力学とともに現代物理学の理論的土台となるものであるが、ボルツマンがその基礎を築いて以来約100年の歴史において、第一の最大の節目(ふしめ)となるのが、20世紀初めにギブスが行ったアンサンブル理論の形成である。われわれがみる対象系は一つであるが、それとまったく同じ構造をもつ力学系を多数想定し、この多数の体系の(仮想)集団をアンサンブルensemble(集団)とギブスはよんだ。マクロの物理量は、対象系の一つの巨視的状態に対応する多数の微視的状態にわたっての平均量と考えられるが、以上の仮想的集団を統計的考察のために用いる。すなわち、対象系の微視的状態の時々刻々の時間的変動を追って時間平均をとるかわりに、アンサンブルについての集団平均をとる。これが基本の考えである。
アンサンブルの概念は、マクスウェルがすでに考えていたが、彼はそれを発展させるに至らず死去した。ギブスは、1884年にそれを論じ、1896~1899年のノートで吟味しており、その思索の結果を1902年の著書『統計力学の基礎的諸原理』Elementary Principles in Statistical Mechanicsで体系的に展開した。統計熱力学のみごとな体系的構成がここに与えられたのである。その論理構造は、その後の量子力学の出現を予期していたかのように、そのまま維持され、今日に至っている。
[荒川 泓]
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