多相平衡、すなわち二つ以上の相の間で平衡が成立しているとき、その自由度を決める法則をいう。1876年から1878年にかけてアメリカのJ・W・ギブスによって発表され、ギブスの相律ともいう。平衡にある系の状態を決めるのに必要な独立の状態変数(圧力、温度および成分物質の濃度)の数を自由度というが、その自由度をfとするとき、n個の成分からなり、p個の相として平衡にある場合、
f=n+2-p
で示される。たとえば、一成分系(n=1)では、その系が一つの相(気相、液相、固相のうちどれか一つ、すなわちp=1)であればf=2となり、温度と圧力の2変数を自由に変えることができる(たとえば水蒸気のみが存在する場合)。一成分系で二つの相(たとえば液相と気相)が共存する系では、f=1となり、温度または圧力のどちらか一つを決めるとほかはすべて決まる(たとえば水と水蒸気が存在する場合)。また三つの相が共存すれば、温度も圧力もその物質に特有な一定値となってしまう。水の三重点はこの例で、水という一つの成分からなって(n=1)、水蒸気(気相)、水(液相)、氷(固相)の三相共存(p=3)では、
f=1+2-3=0
となる。二成分系以上では、変数として温度と圧力のほかに成分の濃度(普通モル分率で表す)が入り複雑になる。
[戸田源治郎・中原勝儼]
物質系において平衡に存在する相の数pと,独立な成分(その各相における濃度が数学的に定義できるような構成要素)の数cおよびそのとき独立に変えることのできる状態変数の数(自由度と呼ばれる)fの間の関係を与える式。p-c+f=2で表される。19世紀後半にアメリカのJ.W.ギブズによって導かれたもので,ギブズの相律とも呼ばれる。この関係式は,相の間に平衡が成り立つためには各成分の化学ポテンシャルが共存するそれぞれの相で互いに等しくならなければならないという要請から導かれる。pとcは1以上の整数,fは負でない整数である。例えば,水などの純粋物質では成分数c=1で,pは1から3までの整数を取りうる。p=1のとき(気相,液相,固相のうちいずれか一つの相だけが存在する場合)には自由度f=2となり,二つの状態変数(例えば温度と圧力)をある範囲内でそれぞれ独立に変化させることができる。p=2で二相平衡が成り立つ場合はf=1となるので,温度を決めれば圧力が,逆に圧力を決めれば温度が決まってしまう。また,c=1,p=3の場合は自由度f=0で,温度も圧力も一義的に決まる。このような状態は状態図上では1点で表され,三重点と呼ばれる。固相系のように相平衡に対する圧力の影響を無視してよい場合(凝相系と呼ばれる)には,自由度は相律で与えられるものよりさらに1小さくなると考えてよい。鉱物学の分野では地殻内で共存しうる鉱物の種類がどれだけあるかを規定する法則を鉱物学的相律と呼んでいる。
執筆者:小野 嘉之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
相平衡にある系の自由度の数(F),相の数(P),および成分の数(C)とを関係づける法則.
F = C - P + 2
J.W. Gibbs(ギブズ)(1876年)が熱力学的に導いた.ここで自由度の数とは,平衡にあるその系の状態を完全に規定するために必要な独立な変数(圧力,温度,濃度)の数,相は系のほかの部分と物理的に区別できる均質な部分,成分の数は各相の組成を表すために必要な構成物質の最小数を意味する.たとえば,
CaCO3(s) CaO(s) + CO2(g)
の不均一系平衡では,各相の組成を表すのに必要な成分の数は,CaOとCO2の二つで十分であり,CaCO3を独立な成分として数える必要はない.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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