クラマース(読み)くらまーす(その他表記)Hendrik Anttony Kramers

日本大百科全書(ニッポニカ) 「クラマース」の意味・わかりやすい解説

クラマース
くらまーす
Hendrik Anttony Kramers
(1894―1952)

オランダ理論物理学者ライデン大学エーレンフェストに学び、コペンハーゲンボーアの下で研究を行い、ユトレヒト大学教授を経て、1934年ライデン大学のエーレンフェストの後を継いだ。その初期には、対応原理の研究やハイゼンベルクと共同して光の分散に関する研究、またWKB法として知られるシュレーディンガー方程式の近似解法の創始など、量子力学の確立に重要な貢献をした。クレーニヒとは独立に、1927年に導出したクラマース‐クレーニヒの関係式は、その後の光の分散理論の基本公式となり、また1930年に理論的に研究したクラマース縮退は、断熱消磁極低温を得るのに利用されている。後年の彼の研究は物理学の広い分野にわたったが、数学的な表現がもっている物理学的意味についての洞察力に優れた物理学者であった。

[川合葉子]

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改訂新版 世界大百科事典 「クラマース」の意味・わかりやすい解説

クラマース
Hendrik Antony Kramers
生没年:1894-1952

オランダの物理学者。ロッテルダム出身でライデン大学に学び,P.エーレンフェストのもとで理論物理学を専攻した。その後コペンハーゲンでN.ボーアの共同研究者となり,理論物理学研究所の開設(1920)とともに最初の助手,次いで講師となった。1924年ユトレヒト大学教授,34年ライデン大学教授。

 コペンハーゲン時代の研究は,原子構造の量子論の展開にかかわるもので,とくにヘリウム原子の研究(1923)やボーア,J.C.スレーターとの連名の著名な論文(1924)が含まれる。ここでは素過程ではエネルギー保存の不成立も示唆されたが,同時に調和振動子のモデルによる遷移が考察され,これは分散理論の基礎となって,W.K.ハイゼンベルクとの共同研究によりやがてマトリックス力学へ展開した。ボーアの対応原理の実践として,量子力学の先駆的業績として知られる。

 その後のクラマースの研究は,ほぼ四つの部分に分けられる。その一つは量子力学の数学的定式化に関するもので,ベンツェル=クラマース=ブリュアン近似法の開発,回転群と不変量によるスペクトルの多重構造の理論,ラメ関数の理論などがある。第2は常磁性,磁気光学効果,強磁性に関するもので,静電場内におかれたイオンの縮退に関するクラマースの定理を含む。断熱消磁による冷却の研究もある。第3の部分は強磁性およびスピン波の研究から進んだもので,統計理論および気体運動論に関するものである。イジング模型の研究,境界面における拡散項の寄与,ブラウン運動の理論とその応用などがある。第4は素粒子論の相対論的定式化および放射論にかかわるものである。これら広い領域にわたる研究でクラマースは際だった数学的才能で物理学的内容の考察を行い,物理学の発展に大きく寄与した。1946-50年には国際純粋および応用物理学連合(IUPAP)の会長を務めた。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クラマース」の意味・わかりやすい解説

クラマース
Kramers, Hendrik Anthony

[生]1894.12.17. ロッテルダム
[没]1952.4.24. イーグスゲスト
オランダの物理学者。ライデン大学卒業後,コペンハーゲン大学講師を経て,ユトレヒト大学教授 (1926) ,ライデン大学教授 (34) 。 1924年のラマン効果の理論的予測,27年のクラマース=クローニヒの関係式の導出などの業績が有名であるが,ほかにも波動方程式の近似解法 (ベンツル=クラマース=ブリユアンの方法) ,合金の相転移に対するクラマース=ワニエの方法,常磁性錯塩についての理論,X線や音響量子に関する理論研究でも知られる。

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367日誕生日大事典 「クラマース」の解説

クラマース

生年月日:1894年12月17日
オランダの理論物理学者
1952年没

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世界大百科事典(旧版)内のクラマースの言及

【クラマースの法則】より

…クラマースH.A.Kramersが1923年に発表したX線の光電効果的吸収の理論式に基づいて,それを光の波長について平均した近似式をいい,星の内部構造論に用いられる。密度をρ,温度をTとおけば,その式は, と表現され,比例定数は化学組成に依存する。…

※「クラマース」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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