改訂新版 世界大百科事典 「グラシアン」の意味・わかりやすい解説
グラシアン
Baltasar Gracián y Morales
生没年:1601-58
スペインの文筆家,イエズス会士。バレンシア,アラゴン,カタルニャ各地の神学校教授を歴任,説教でも評判を得る一方,会則を無視して,長上の許可なく著作を偽名で出版しつづけ,物議をかもした。1657年に処罰されて執筆を禁じられ,脱会を希望するが入れられぬまま病没した。彼の作品は,現実社会と人間を邪悪・愚鈍とみる深いペシミズムで貫かれている。《英雄》(1637),《識者》(1646)はおのおの,卓越した人間あるいは聡明な通常人がこの腐敗した社会にうちかつにはどう対処すべきかを指南する。晩年の大作《うるさがた(クリティコン)》(1651-57)ではさらに悲観的で,悪は正す方法のないものと考えられる。難破した都会人と猛獣に育てられた男が諸国を遍歴して不死の国に至るというこの思想小説は,寓意的な手法を駆使しているが,作者が実際に体験した事実や人物への鋭いあてこすりを含んでいる。その他の作品に,《政治家,カトリック王フェルナンド》(1640),箴言集《神託便覧》(1647),《聖体拝領席にて》(1655)がある。《機知および創作の技》(1642,48)は,古今の作品を例に文学表現を論じたバロック的言語感覚の証言として興味深い。彼の作品は早くから英・フランス・イタリア・ドイツ語に翻訳され,ラ・ブリュイエールなどのフランス・モラリストや,またはショーペンハウアーへの影響が指摘されている。
執筆者:吉田 彩子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報