日本大百科全書(ニッポニカ) 「ケロール」の意味・わかりやすい解説
ケロール
けろーる
Jean Cayrol
(1911―2005)
フランスの詩人、小説家。ボルドーの生まれ。1928年から詩作を発表。第二次世界大戦中抵抗運動に加わって捕らえられ、強制収容所の地獄を経験。すでに詩作にみられた、死を通して生を見据える「ラザロ的」文学世界は、この不在と拒否の世界の体験によって決定的に深められた。「夜と霧」の間からよみがえって、剥奪(はくだつ)された世界の存在感を回復しようとする者の世界である。人は、肉体と魂を病む不完全な者として、記憶と夢想の入り交じる非日常化された日常世界のなかを、自己の存在の証明を空しく求めながらさすらう。その視点と方法によってヌーボー・ロマンの先駆となる。小説に3部からなる『他者への愛に生きん』Je vivrai l'amour des autres(1947。ルノード賞)、『異物』Les corps étrangers(1959)、『真昼・真夜中』Midi-Minuit(1966)、『その声はいまも聞こえる』Je l'entends encore(1968)など。また69年以降、寓意(ぐうい)的表現のなかに新たな世界の回復を目ざす『牧場の物語』Histoire d'une prairie以下一連の「物語」シリーズがある。詩集に『夜と霧の詩』Poèmes de la nuit et du brouillard(1945)、『言葉もまた住処(すみか)』Les mots sont aussi des demeures(1952)、『詩日記』Poésie-JournalⅠ・ⅡⅢ(1969.77.80)、評論に『われらの間のラザロ』Lazare parmi nous(1950)、『人間的空間』De l'espace humain(1968)などがあり、80年代には、『太陽にさらされて』Exposés du soleil(1980)、『自然よりも白い夜々』Des nuits plus blanches que nature(1986)などの短編集があり、90年代に入ってからは、『声高く』A voix haute(1990)など詩作品の刊行が目立った。
[小林 茂]
『弓削三男訳『異物』(1967・白水社)』▽『弓削三男訳『真昼 真夜中』(1971・白水社)』▽『篠田知和基訳『その声はいまも聞こえる』(1973・白水社)』