コモリガエル(英語表記)Surinam toad
Pipa pipa

改訂新版 世界大百科事典 「コモリガエル」の意味・わかりやすい解説

コモリガエル (子守蛙)
Surinam toad
Pipa pipa

別名ピパ。雌が卵を背負って保護しながら育てる変わった習性で知られるピパ科カエル。南アメリカ北東部のオリノコ・アマゾン水系等に分布し,完全な水生種。体長12~20cm,三角形の頭部も胴も扁平で,多数の小さな房状突起があり,水底に横たわるとまるで大きな枯葉が沈んでいるように見える。口は大きく,突出した眼は退化的できわめて小さい。前肢の指先に星形の感覚器官があり,背面には数条の側線が並んでいる。後肢および趾間(しかん)の水かきはきわめてよく発達するが,前肢は小さく,並行して前方に伸びており,前肢の間を通過する餌は何でもかき込んで食べる。無舌類と呼ばれるように舌がなく,歯も鼓膜も欠く。本種は変わった産卵習性をもつ。雌雄腰部抱接型で,ペアを組むとしばらくして産卵を開始する。それは,水中を弧を描いて回転しながら行われ,回転の頂点に達したときに産卵,授精され,卵は雄の腹部に落ちる。卵は抱接した両者が下向きに泳いだとき,雌の背面に移されて付着する。1回転で7~8個ほど産み,これが10~20分間隔で20回以上繰り返されるが,最終的には,産卵された150~250個のうち70~80個ほどが背中に残る。卵は1週間ほどで雌の肥厚した皮膚に包まれ,背中にできた穴の育児室で孵化ふか)した幼生は,育児室の壁の血管を通じて母体から酸素の供給を受けながら発育する。幼生は3~4ヵ月後には変態が終了して,背中の穴から出て水中に泳ぎ出るが,透明の尾をつけているものもある。ピパ科には5種が知られ,ベネズエラからブラジル,ペルーまでに分布する。カルバルホコモリガエルP.carvalhoiは幼生の発生途中の段階で雌から泳ぎ出て,30日ほどで変態する。ヒメコモリガエルP.parvaは全長4.5cmほどの小型種。

 このように親が卵または幼生を体に付着させて保護することは,つねに条件のよい環境に移動し,外敵からも守るという利点がある。したがって卵は大粒で数が少なく,発生の段階が進んだ幼生を孵化させたり,なかには変態終了まで世話する種類もある。これらにはピパ科以外にも背中の育児袋で卵を育てる南アメリカ産フクロアマガエル類があり,そのほかにも,ゲルジアマガエルサンバガエルなどは卵を,ヤドクガエル,セーシェルコオイガエルなどは幼生を背負って保護する。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「コモリガエル」の意味・わかりやすい解説

コモリガエル
こもりがえる / 子守蛙
Surinam toad
[学] Pipa pipa

両生綱無尾目コモリガエル科のカエル。水中性で、ピパともいう。アマゾン川、オリノコ川流域に分布する。背面は暗褐色で、水底の泥と紛れやすい。体は扁平(へんぺい)で、頭部は三角形。目はきわめて小さく、眼瞼(がんけん)がない。口角部の皮膚が細長く伸びて突起となる。前肢指端は星状に分岐し、水底の餌(えさ)を探すのに用いられる。後肢の水かきは大きく、遊泳力が強い。体長12~20センチメートル。繁殖期になると雄は雌の腰に抱接し、水中を上下方向へ輪を描くように遊泳する。1回転ごとに産み出される数個の卵は、雄の腹面を経て雌の背面に移り、柔らかく肥厚した皮膚に押し込まれる。このようにして50個内外の卵が雌の背面に産卵される。卵は皮膚に埋もれた状態で発生し、変態を終えた幼体となって水中へ泳ぎ出る。コモリガエルの類にはこのほかに本種より小形の4種が知られ、いずれも南アメリカに分布。

[倉本 満]

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百科事典マイペディア 「コモリガエル」の意味・わかりやすい解説

コモリガエル

ピパとも。両生類ピパ科。体長12〜20cm,背面は暗褐〜緑褐色,腹面は淡い。南米の北東部に分布。体は扁平で後肢のみずかきが発達。常に水中で生活し,前肢の間を通過する餌は何でもかき込んで食べる。雌は腰部を雄にだかれ水中を回転しながら産卵し,雄は産み出された卵を,雌の背中に押し上げる。卵が付着した部分の皮膚は次第にくぼんで穴になりやがて蓋ができる。卵はその中で発育し,変態を終える。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「コモリガエル」の意味・わかりやすい解説

コモリガエル
Pipa pipa; Surinam toad

カエル目ピパ科。ピパともいう。体長 20cm内外。平たくやや四角形のからだつきをしており,背面は暗褐色,腹面は白色がかる。おもに水中で生活し,ほとんど陸には上がらない。産卵期になると雌は背側の皮膚が肥厚し,その中に卵を産み込み,哺育するのでその名がある。ギアナ,ブラジルのアマゾン川流域に分布する。

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世界大百科事典(旧版)内のコモリガエルの言及

【育児囊】より

…その他に両生類,魚類および節足動物の甲殻類などにも育児囊をもつ種がいる。たとえば,南米産のカエル(コモリガエル)では雌の背中の皮膚に穴ができ,卵はこの中で発生を遂げる。またヨウジウオ科のヨウジウオやタツノオトシゴでは雄の腹部に育児囊があり,雌が生み入れた卵を稚魚になるまで育てる。…

【胎生】より

…シーラカンスも胎生魚である。子を口に含んで育てるマウスブリーダーのような魚や,背中の皮膚に凹所をつくり,そこで卵を孵化させるコモリガエルなども特殊な形式に分化した広義の胎生の一種であるといえよう。【石居 進】。…

※「コモリガエル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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