改訂新版 世界大百科事典 「サンバガエル」の意味・わかりやすい解説
サンバガエル
midwife toad
Alytes obstetricans
変わった産卵習性で知られるスズガエル科のカエル。体長4~6cm。ヨーロッパのドイツからスイス,ポルトガル地方に分布する。体は小型のヒキガエルのようなずんぐり型で,皮膚には多数のいぼ状隆起があり,毒液を分泌して自衛手段とする。眼が大きく瞳孔は縦長で,後肢のみずかきは発達が悪い。姿に似ず,鈴の音のような美しい声で鳴く。夜行性で,昼間は地中や石の間などに隠れ,餌は昆虫,ナメクジなど。繁殖期は晩春から初夏までで,夜間に地中の穴で抱接する。雌は後肢をのばし20~100個ほどが含まれるひも状の卵塊を産む。雄はこの卵塊を後肢のまわりに巻きつけ,卵が孵化(ふか)するまでの約3週間,体につけて保護する。その間,乾燥し過ぎると水辺に移動して,卵塊を水にひたす。孵化が近づくと雄は水たまりに入り,発生の進んだ幼生は水に泳ぎ出るが,このとき,幼生は左右の鼻孔の間から酵素を分泌して卵膜を破る。イベリアサンバガエルA.cisternasiiは体長約5cm,スペイン南部に生息し,砂地に多い。オーストリアの生物学者カンメラーP.Kammererが獲得形質の遺伝の実験に本種を用い,論争を巻き起こした話は有名である。
執筆者:松井 孝爾
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報