日本大百科全書(ニッポニカ) 「コルナイ」の意味・わかりやすい解説
コルナイ
こるない
János Kornai
(1928―2021)
ハンガリーの経済学者。ブダペスト大学で哲学を学び、1948年から1954年まで新聞社の経済記者として活躍、1955年科学アカデミー経済研究所に移る。スターリン批判の年、1956年に発表された『経済管理の過度集権化』は英訳も刊行され内外で注目された。ついで数理経済学に転進、サイバネティックス的手法で新古典派の一般均衡論を批判した『反均衡論』(1971)でその地歩を確立、全2巻の大著『不足の経済学』(1980)で世界的な経済学者としての令名を高めた。1982年ハンガリー科学アカデミー正会員。1983年(昭和58)来日した。1980年代末からハーバード大学教授兼任。東欧革命直後に刊行した『自由経済への道』(1990)以降、一時は新経済自由主義に傾斜したが、まもなく軌道修正、ブダペストに設立した高等研究所「コレギウム・ブダペスト」とハーバード大学を拠点に活動していた。1992年には大著『社会主義経済システム――共産主義の政治経済学』を著した。2000年には内外の著名な経済学者多数が寄稿した70歳記念論集も刊行されている。なおコルナイは、国有企業に対する国家の温情主義的管理のため、企業の予算制約が「ソフト」(資本主義は「ハード」)になり、企業は効率化を強制されないという社会主義経済の根本的病理を「ソフトな予算制約」という概念で確立した。
[佐藤経明]
『岩城博司・岩城淳子訳『反均衡の経済学』(1975・日本経済新聞社)』▽『盛田常夫・門脇延行編・訳『反均衡と不足の経済学』(1983・日本評論社)』▽『盛田常夫編・訳『「不足」の政治経済学』(1984・岩波書店)』▽『盛田常夫編・訳『経済改革の可能性』(1986・岩波書店)』▽『佐藤経明訳『資本主義への大転換――市場経済へのハンガリーの道』(1993・日本経済新聞社)』▽『盛田常夫訳『コルナイ・ヤーノシュ自伝――思索する力を得て』(2006・日本評論社)』