イタリア盛期ルネサンスの画家。本名アントニオ・アレグリAntonio Allegri。通称は生地モデナ近郊のコレッジョに由来。初めモデナの画家フランチェスコ・デ・ビアンキ・フェッラーリFrancesco de Bianchi Ferrari(1457/1460―1510)に学んだのち、マントバに赴き、マンテーニャ、コスタLorenzo Costa(1460―1535)、ドッソ・ドッシの芸術に接し感化を受ける。記録に残る最初の作品は1514年の『聖フランチェスコの聖母』(ドレスデン絵画館)で、すでにマンテーニャの堅固な造形性から脱却し、ラファエッロの調和に満ちた構図法やレオナルド・ダ・ビンチの柔らかいスフマートの技法に学び、独自の道を歩み始めている。1518年以後、活動の中心をパルマに移し、三つの重要な天井画制作に携わる。第一は聖パオロ僧院尼僧院長室の天井画(1518~1519)で、神話主題による優雅で幻想的な装飾は、1518年ごろと考えられているローマ旅行の成果に帰せられる。第二は聖ジョバンニ・エバンジェリスタ聖堂の円蓋(えんがい)装飾『栄光のキリスト』(1520~1524)で、無限空間に浮遊するキリストの姿を仰ぎ見る大胆な短縮法で描いている。絵画空間と現実空間の連続性というイリュージョニズムの原理に基づいたバロック絵画の先駆をなすもので、イタリア絵画史上重要な作品である。第三はパルマ大聖堂の円蓋装飾『聖母被昇天』(1525~1530)で、無数の天使・聖者が螺旋(らせん)状に配され、聖母が無限の天空に向かって上昇する幻想的な光景を描いている。前作よりさらに複雑なイリュージョニズムを追求したことにより、教会側から「カエルの足のシチュー」と酷評された。コレッジョは制作を中断し帰郷したため未完に終わったが、彼の円熟期の頂点にたつ作品として位置づけられる。同大聖堂の仕事の合間にも優れた祭壇画を描き、それぞれ「昼」「夜」と通称される『聖ヒエロニムスの聖母』(パルマ絵画館)と『羊飼いの礼拝』(ドレスデン絵画館)はその代表作である。彼の最後の画業は1530~1531年のマントバ公Federico Ⅱ Gonzaga(1500―1540)に依頼された「ゼウスの愛」を主題とする一連の官能的な作品『ダナエ』(ローマ、ボルゲーゼ美術館)、『イオ』(ウィーン美術史博物館)などである。彼の絵画は、崇高さよりも横溢(おういつ)する生の歓(よろこ)びの表現を求め、光の巧みな処理による微妙な明暗効果、柔らかな色調、対角線構図、人物の動勢表現、イリュージョニズムを駆使し、バロック絵画を予告しながら、甘美な幻想性、官能性に包まれた情感豊かな独自の作風を築き上げている。エミリア地方にその活動範囲は限られ、短命であったにもかかわらず、バロック絵画の先駆者の一人として17、18世紀のイタリア絵画に多大の影響を及ぼした。
[三好 徹]
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イタリアの後期ルネサンスの画家。本名アントニオ・アレグリAntonio Allegri。エミリア地方のパルマ近郊コレッジョに生まれ,生涯の大部分をパルマで送った。その画業の形成は明らかではない。エミリア地方の文化的中心地マントバの巨匠マンテーニャ,ミラノに残るレオナルド派,ベルガモに作品の多いロレンツォ・ロットなど,16世紀初頭の北イタリア画派の折衷的様式と考えられるが,ティツィアーノ,ジョルジョーネなどベネチア派の色彩にも深く影響されている。主要な特徴は,視覚的イリュージョンの優先である。線をけっして描かず,光と闇のニュアンスの中に繊細な色調を溶け合わせ,すべてのイメージをイリュージョンとして表現した。パルマ大聖堂の天井画《聖母被昇天》(1526-30)では,光と雲の合間に立ち上る聖人や天使を短縮法によって描き,バロック絵画の先駆を告げている。感覚的な甘美さをもつ人物像や生新な自然描写は,16世紀におけるポスト巨匠のいわゆる〈デタント(緊張緩和)様式〉のもつ耽美主義的傾向を表す。
執筆者:若桑 みどり
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…現在は〈赤い公国〉といわれる革新市政である。 文化的伝統を有する町で,16世紀にはバロック絵画の先駆をなすコレッジョが活躍した。また,マニエリスムの画家パルミジャニーノは同市の出身である。…
…フランチェスコ2世(在位1484‐1519)の夫人イザベラ・デステは,ルネサンス期に活躍する女性の中でも最も魅力的な人物で,作家,芸術家に取り囲まれ,洗練された宮廷文化を繰り広げた。フェデリコ2世(在位1519‐40)は,神聖ローマ皇帝カール5世に献呈する〈ゼウスの愛の物語〉を扱った一連の作品をコレッジョ(1489‐1534)に委嘱。G.ロマーノ(1499ころ‐1546)には,幻想的な別荘(パラッツォ・デル・テ)の設計と内部装飾を委嘱し,さらに同市の都市計画も依頼し,ヨーロッパでも有数の整備された美しい都市とした。…
※「コレッジョ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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