法律学的には国または公共団体の行政を担当する行政機関ならびにその内部部局の全体系=系統と定義される。しかし行政学ないし組織理論の観点からすれば、それは、政治体からその諸資源を引き出し、国家の諸制度によって媒介されている行政機能を担う公共組織であり、組織とは、その環境との関係で入力・出力を交換しあう、特定の目標の実現を目ざす複数の人間の協力的活動体系として定義されよう。いずれにしろ行政組織は一方で統治組織の一構成部分であることから当然に政治的性質を帯び、他方でその機能の性質が実行的建設的であることから当然に技術的性質を帯びることになる(その二重的性質)。
[田口富久治]
ドイツ、フランスでは、行政府内の組織権を原則として行政府自体にゆだね、議会制定法による介入を憲法的に制約している。イギリスでは議会制定法による介入に法的に限界はないが、枢密院令の形をとる政治的執行部による決定が実質的に重きをなしている。アメリカと日本では議会制定法によって直接的に規制されている領域が広いが、その際アメリカでは、個別組織法令ないし個別歳出権限法による個々的介入が強い反面、各省長官による行政立法への委任が多く、また時限的な行政機構再編成法に基づく大統領の行政機構再編成計画による組織改変がなされているのに対し、日本では国家行政組織法によって、一律的にかなり広い範囲が法律事項とされていて、行政府の組織権はもっとも厳しく制限されている。なお、行政組織の決定制度をめぐる論点としては、法律事項か行政府裁量事項かの論点に加えて、どこまでが政令事項で、どこから先が省令以下の行政立法にゆだねられているかの問題があるが、日本では政令事項が細目に及んでいるという特徴があって、このことが諸国に類似するもののない行政管理庁(のちの総務庁、2001年より総務省)による画一的な行政組織の管理制度を存在可能にしている、と政治学者の西尾勝(まさる)(1938―2022)により指摘されている。
[田口富久治]
すでに述べたように行政組織には政治的および技術的という二重的性質があるため、各国のそれに一般的に妥当する編成原則をみいだすことは困難である。このような編成原則を実務的に追求した試みとしては、1918年イギリスの「政府機構委員会」(ホールデン委員会)の、部省間への職能の配分にあたっての、サービスされるべき人(顧客)によるという原則と、提供されるべきサービスの種類によるという原則、という2原則の提示と、後者の原則の採択がある。さらに1937年アメリカの「大統領委員会」(ブラウンロー委員会)の報告書、およびそれと表裏一体をなすギューリックLuther Halsey Gulick(1892―1993)らの『管理学論集』の提起した(1)目的別組織、(2)方法別組織、(3)対象別組織((a)サービスを受けまたは取り扱われる人を基準とするか(b)取り扱われる物を基準とする組織)、(4)地域別組織――(1)および(3)(a)によって垂直的部省が、(2)(4)および(3)(b)によって水平的部省がつくられる――という部省編成原則、および最高管理者の職責としてのPOSDCORB(ポスドコルブ)(計画・組織化・人事・指揮・調整・報告・予算)の提示は有名である。しかし行政組織のあり方は、それぞれの国における統治組織のあり方(たとえば、連邦国家か単一国家か、議院内閣制か大統領制かといった立法府と行政府の相互関係の形態、政治的任用と官僚制的任用の接合の仕方など)によって強く規定されているため、先にみたような分業論的編成原則が適用されるのは、せいぜい部省組織の内部構造に限られる。だがその部省組織――普通、事業的部門と官房的部門に分かれている――の、たとえば官房的部門のあり方も国によって異なっているし、部省の階層構造や政治的統合単位と行政的活動単位もさまざまである。結局、各国の中央部省の編成を通じて、ある種の組織編成原則が貫徹しているのは、中央部省間の分業基準として、ギューリックらのいう目的ないしパフォーマンス(業務)のそれが優越的地位を占め、方法、対象、地域によるそれは副次的地位を占めているということであろう。
[田口富久治]
近代国家の行政組織は、その初期においては、基幹的それとしての部省制を中軸とする相対的に単純なものであった。しかし行政国家化・国家介入主義の全面的展開に伴って、行政組織が全体として膨大化するだけでなく、行政組織類型も多様化してきた。日本の現行中央行政組織類型は、(1)省庁(その機構の一部として林野など現業的事業体を含む)、(2)行政委員会、(3)諮問機関としての審議会などに区別されるが、そのほかに(4)多数の「特殊法人」――公社、公団、事業団、公庫、金庫、特殊銀行その他――がある。アメリカ合衆国の連邦政府の行政類型としては、(1)省、(2)大統領府、(3)独立機関、(4)独立規制委員会、(5)公社、(6)(7)財団、協会および研究機関、(8)請求委員会、(9)省庁間委員会、(10)制定法上の諮問機関、(11)行政部・立法部合同委員会、(12)政府間機関、(13)中間的機関(連邦準備銀行など)、(14)契約上の業務を遂行するため政府によって出資・組織された私的制度、などがあげられている。イギリスの中央行政組織類型としては、(1)中央各省、(2)公社、(3)諮問機関、(4)準司法的審判機関があげられるが、それに加えて両方あわせて600に上るといわれる「準政府組織」(略称quagos)と「準非政府組織」(略称quangos)の存在が注目されている。前者は、中央政府の責任を分封(hiving off)する手段としてか、多少とも大蔵省から独立した財政上の能力を有するという理由で、後者は、主として論争的ないしやっかいな問題を議会統制からその都度式(ad hoc)の公共機関に送り出し、また支配的制度やエリートの部分的統制ないし自己規制を容易にするため、設立される。いずれにしろ、日本の特殊法人、アメリカのそれに相当する行政諸類型、イギリスのquagosとquangosなどの増殖は、一方では経済や市民社会に対する官僚的支配の拡大と民衆統制・議会統制の困難を引き起こすが、他方では国家介入における不首尾一貫性と矛盾を惹起(じゃっき)している。
[田口富久治]
国家介入主義の全面的展開に伴う行政組織の膨張―分化、また公的機能の担当主体の多様化―分散化は、現代行政に特徴的な行政組織における競争や紛争を生み出す。それは基本的には、被介入環境(各行政機関はその顧客と相互浸透ないし共生関係を取り結ぶ)の要求や利害の対立を反映するものであるが、同時に各行政機関の内部に形成されている「機関の哲学」によって媒介されていることが多い。それは、より具体的には、機能の重複や政策上の対立に原因をもつものである。行政競争・紛争を調整する装置としては省庁間委員会の活用があげられるが、最終的には政治的執行部の長、つまり内閣や大統領の裁定にゆだねられよう。しかし省庁間委員会が実効的な調整を行うことが困難な事例も数多くみられるし、内閣の閣僚がそれぞれが代表する行政機関―特殊利益の代弁者となったり、大統領の裁定が実際に受容されるとは限らない事例も多い。
[田口富久治]
大日本帝国憲法の下においては、行政組織についての規律は天皇に固有の権限とされ、行政組織の大部分は、公務員を含めて、天皇の官制大権および任免大権の行使として勅令によって定められていた。これに対し、日本国憲法の下においては、行政組織についての天皇大権や行政府の固有の組織権は認められていない。国民主権国家における行政組織の法的な基本原則は、行政組織法定主義であり、行政組織を立法議会による民主的統制の下に置く趣旨から、それを法律または条例によって規律し、行政組織の客観的公正と公開をもたらすことを内容とする。日本国憲法は、直接的には内閣(66条以下)、会計検査院(90条)、地方公共団体(92条以下)および官吏(73条4号)について定めているにすぎないが、国家行政組織法とこれに基づく各省庁設置法、地方自治法、国家公務員法、地方公務員法などが、きわめて詳細な規律を定めている。
[福家俊朗]
国の行政組織は、内閣を頂点とする行政機関からなっている。内閣は、その首長たる内閣総理大臣およびその他の国務大臣からなり、行政権の行使について国会に対し連帯して責任を負う、国の最高の行政機関である。内閣の統轄の下にある行政機関については、国家行政組織法が一般法として基本的事項を定めるものとなっており、より具体的な府、省、委員会、庁などの行政機関の設置や廃止、所掌事務の範囲および権限などについては、これらの行政機関についての各設置法が定めるところとなっている。
国家行政組織は、内閣の統轄の下に、明確な範囲の所掌事務と権限を有する行政機関の全体によって、系統的に構成されなければならないとされ、そのような国の行政機関は、府、省、委員会および庁とされている。府および省は、内閣の統轄の下に行政事務をつかさどる機関として置かれ、委員会および庁は、府または省にその外局として置かれる。内閣府および各省の長は、それぞれ内閣総理大臣および各省大臣とされ、委員会の長は委員長、庁の長は長官とされる。各省大臣は国務大臣のなかから内閣総理大臣がこれを命ずるとされており、委員会および庁の長には、国家公安委員会、金融庁などのように、国務大臣をあてることがとくに法律で定められているものがある。府、省、庁および委員会には、内部部局として官房、局、部などが置かれるとともに、これらの内部部局の設置および所掌事務の範囲は、法律ではなく政令で定められることになっている(昭和58年法律第77号による改正)。
また、府、省、委員会および庁には、法律の定める所掌事務の範囲内で、法令の定めるところにより、審議会等の機関、試験研究機関や文教研修施設のような施設等機関や、特別の機関を置くことができ、また、その所掌事務を分掌させる必要がある場合は、法律の定めるところにより地方支分部局を置くことができる。
なお、国の最高の行政機関である内閣に対して独立の地位を有する行政機関として会計検査院があり、内閣の所轄の下に置かれながらも独立性が強く、かつ国家行政組織法の適用を受けない行政機関に人事院がある。
[福家俊朗]
都道府県および市町村などの地方公共団体の行政組織の大綱は、地方自治法に規定されている。地方自治法は、地方公共団体の行政機関を執行機関とよび、執行機関の組織は、地方公共団体の長(都道府県知事、市町村長)の所轄の下に、それぞれ明確な範囲の所掌事務と権限を有する執行機関によって、系統的にこれを構成しなければならない、としている。同法の定める執行機関としては、地方公共団体を統轄しこれを代表する長のほか、委員会(教育委員会、公安委員会など)または委員(監査委員)があり、付属機関として自治紛争調停委員、審査会、審議会、調査会、その他の調停、審査、審議または調査のための機関を置くことができる。また、長は、その権限に属する事務を分掌させるため、条例で、支庁、地方事務所または支所、出張所をいわゆる出先機関として設けることができる。なお、長の権限に属する事務を分掌させるための事務部局として標準的な部局や、長の補助機関(副知事または副市町村長、会計管理者など)についても、地方自治法は必要な規定を置いている。
[福家俊朗]
『辻清明編集代表『行政学講座4 行政と組織』(1976・東京大学出版会)』▽『今村都南雄著『組織と行政』(1978・東京大学出版会)』▽『雄川一郎・塩野宏・園部逸夫著『現代行政法大系7 行政組織』(1985・有斐閣)』▽『田中豊治他著『地方行政組織変革の展望』(1989・学文社)』▽『塩野宏著『行政法研究5 行政組織法の諸問題』(1991・有斐閣)』▽『佐藤功著『法律学全集7-1 行政組織法』新版増補(1994・有斐閣)』▽『室井力編『現代行政法入門2 行政組織法・主要な行政領域』第4版(1995・法律文化社)』▽『小林博志著『行政組織と行政訴訟』(2000・成文堂)』▽『塩野宏著『行政法3 行政組織法』第2版(2001・有斐閣)』▽『藤田宙靖著『行政組織法』新版(2001・良書普及会)』▽『今村都南雄著『日本の政府体系 改革の過程と方向』(2002・成文堂)』
もっとも広義には,公行政を行うための組織化されたしくみを包括していうが,多くの場合,行政を実施するうえで必要な物的施設をそこから除外し,さらに狭義になると,物的要素のみならず,行政を現実に遂行する職員(公務員)に関する人的要素をも除外した機構だけを指す。すなわち,行政組織の核心にあるのは,さまざまな行政の遂行にあたって必要な職務ないし機能と権限に関する部分であり,そうした職務(所掌事務)と権限の配分方法や構造形態が中心問題となる。行政組織のあり方およびそれを規定する行政組織法制の存在様式は,それぞれの国における中央,地方の政治社会のあり方に強く制約されており,一様ではない。日本では,憲法に基づいて行政権をゆだねられた内閣の機構については内閣法(1947公布)が,内閣の統轄下にある国の行政機関の機構については国家行政組織法(1948公布)が,そして地方公共団体における行政機構については地方自治法(1947公布)が,それぞれの基準的編成を定めている。行政組織の範囲を広くとれば,このほか,多種多様な特殊法人や公共組合の組織も含められることになる。
狭義の行政組織としての行政機構に関する最も重大な問題は,だれがどのような形式でどの程度までそれを決定するのかという決定制度の問題である。戦後の日本における国家行政組織法制をめぐる最大問題の一つがこれであった。行政機構の編成について,すべてを行政部の専断にゆだねることは民主的法治国家の基本原理からみて不当であり,反対に,すべて細部にまでわたって法律で規定することも行政の技術性や能率性の要請に照らして不可能である。そこで,行政機構の決定制度は,これら双方の要請を調和させ,両立させるための妥協点を求めて,その時その時の政治状況を背景に構想されることになる。
行政組織の構造形態は,その頂点部分が一つの職位によって占められているか,あるいは複数の職位からなっているかによって,独任制機関と合議制機関に大別されるが,行政機構の全体をとってみると,ほとんどの場合,数多くの組織単位の階統制的組合せによって構成されており,頂点の形態だけで行政組織の構造形態を区分することはできない。この例にみられるように,行政組織の構造形態を規定する組織編成原理の多くは,さまざまな条件を前提としているけれども,それにもかかわらず,より合理的な行政組織の編成方式を求めて,いくつかの一般的な原理,原則が抽出されてきた。なかでも,指揮命令系統は一元的でなければならないという〈命令一元化の原則〉,効果的な統制機能の適正範囲に関する〈統制範囲の原則〉,あるいは,達成すべき主要目的,主要な作業方法,対象とする人々または事物,対象とする地域などに関する〈部門編成原理〉などがよく知られている。これらについては単なる諺にすぎないとする有力な批判もあるが,具体的な組織編成における実際的効用のすべてがなくなったわけではない。
→行政委員会 →省 →審議会 →庁
執筆者:今村 都南雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…これは官僚制現象自体の動的な性格,構造によるもので,この点を理解すればその意味を整合的に説明することも困難ではない。ここでは,一定の合理的な方法で編制された行政組織が,そのことにより社会に対して統制力を発揮するに至ったとき,そのような作用,または作用の中核となる組織自体をさして用いられることばである,と理解する。 もっとも,このような理解が成立するまでにはいくたの歴史的変遷があった。…
※「行政組織」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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