群れ(読み)ムレ

デジタル大辞泉 「群れ」の意味・読み・例文・類語

むれ【群れ】

たくさんの人や生物が集まっている状態。あつまり。むらがり。「水牛が群れをなす」
なかま。同類。やから。「無頼ぶらい群れに身を投ずる」
[類語]群集人出人だかり群衆人垣黒山人波行列人通り野次馬勢ぞろい烏合雲霞

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改訂新版 世界大百科事典 「群れ」の意味・わかりやすい解説

群れ (むれ)

動物の集合を表す一般用語で,日本語では動物種によらずこの語を用いてとくに違和感を感じないが,英語では,遊泳中の魚群などにはschoolをあて,鳥類の群れにはflockを,有蹄類の群れにはherdを,オオカミの群れにはpackを,ライオンなどの群れにはprideを,クジラアザラシなどの小さな群れにはpodを,またサルなどの組織化された群れにはgroupを,その比較的サイズの大きいものにはtroopをあてる。これらの群れには,その構成員が定まっているものと,同種の個体あるいは同種で同年齢の個体,あるいは同じ性の個体であれば自由に入れ換えが可能なものとがある。前者の例としては,サルその他高等哺乳類の血縁や順位による構成員間の相互認知に基づいて保たれている群れをあげることができるのに対し,後者は回遊する魚群,稚魚の群れ,渡りのときの鳥の大群など,構成員相互間の個体の認知が群れを構成するための要件になっていない群れ,動物行動学でいう〈無名の群れanonymous group〉をあげることができる。群れは一般に,同種の個体の集合を表す用語であるが,異種の個体が集まって一つのまとまりをなす場合もあり,これを混群mixed-species flock,mixed-species groupという。冬季にみられるシジュウカラエナガキクイタダキなどカラ類が集まった群れや,アフリカの熱帯多雨林中でみられる数種のオナガザル類が集まった群れなどの例をあげることができる。群れの集まり方の様態について,集中性や全体の行動に明確な方向性のないものをむらがりassemblyと呼び,群れを構成する個体間の相互誘引は認められても統一性に欠けるものをあつまりaggregationという。今西錦司は,種社会speciaの概念を定義するなかで,オイキアoikiaを種社会の任意な構成要素とした。したがってオイキアにはあらゆる種類の群れと単独行動個体が含まれることになる。

群れを永続的な群れpermanent flock,permanent group,季節的な群れseasonal flock,seasonal herd,繁殖のための群れbreeding flock,breeding colony,同年個体の集合である年齢群age groupなどに分けることもできる。永続的な群れは,社会性昆虫,高等哺乳類とくに霊長類等,なんらかの手段による構成個体間の相互認知に基づいて保たれている群れで,それぞれの種に固有な群れの構成と,その構成を保つための独自の維持機構を備えている。ミツバチの分封swarmingやニホンザルの群れなどにみられる群れの分裂group fissionなどは,群れの維持機構を示す現象とみなすことができる。またハイイロガンコクマルガラスなどのつがいは,配偶者のいずれかが死ぬまで安定した配偶関係を保っていることが知られているが,これも永続的な群れの例に数えることができよう。季節的な群れには,春秋の鳥の渡りの際にみられる群れ,乾季雨季の季節変化に伴ってみられるアンテロープハーテビーストなどの大群,渡りをしなくてもムクドリが秋から冬にかけてつがいを解いて大群をつくる例などをあげることができる。

 繁殖のための群れは,通常は単独生活を営んでいても,繁殖のために集まる習性をもつ多くの動物種に認めることができる。サケやマスは河川を群がって遡上して産卵場でも大きな群れをつくるし,ヒキガエル,マムシなどにもこの種の集まりをみる。一般にスウォームswarmと呼ばれる羽化したアリやシロアリなどの婚姻飛翔nuptial flight,蚊柱なども繁殖のためのコロニーの一種である。年齢群は,ほとんど同時に孵化(ふか)した鱗翅目の幼虫などにもその例をみることができるが,回遊性の魚は一般に年齢群でまとまっている。またサルの群れの中には,同年齢個体による集まりが構成されているものがある。

 各種各様の群れの中で,社会的にもっとも発達をとげたものが永続的な群れであることはいうまでもない。その多くは血縁的な絆を基盤にして保たれている。ニホンジカの群れは2~3世代にわたる母系的な血縁によって支えられた群れで,雄は性成熟までに出自群を離脱するから,群れは未成熟な雄を除いて雌だけによって構成される。群れは独自のホーム・レーンジをもちその中を遊動する。このような永続性のある安定した群れを単位集団unit groupという。霊長類の単位集団は,種によって多様な構成をもつが,そのすべてが両性によって構成されている。その原型的なものは,特定の雌雄各1頭とその子どもによって構成される集団で,メガネザル,インドリなどの原猿類,キヌザル類,テナガザルなどにみられる。母系の集団は,オマキザルの半ば,オナガザル類に広くみられ,種によって単雄と複雄の差はあるが,いずれも雄が集団間で交換される。ゴリラとチンパンジーでは,雌が集団間で交換されている点でオナガザル類とは対照的な差をみせ,雄の他集団への加入はなく,チンパンジーとピグミーチンパンジーでは,父系の構造をもつ。このように霊長類の単位集団は種によって固有の構成をもってはいるが,いずれも外婚の単位となっている。
社会
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「群れ」の意味・わかりやすい解説

群れ
むれ

一般には動物の個体の集合状態を群れとよぶが、さまざまな定義がなされている。また、普通は同一種の集団を群れとみなしているものの、冬季のカラ類にみられる混群のように、数種によって形成されるものもある。動物が寄り集まる原因には大きく分けて二つある。その一つは、個体どうしの誘引によるもの、ほかは、ある場所の条件、たとえば食物が豊富にあるとか、越冬に都合がよいとかいった理由で集団が形成され、個体間の関係には基づかないものである。前者を「群れ」と規定し、後者を「集まり」とか「群がり」とよんで区別することがあり、さらに持続的な組織化された集団に限って「群れ」ということもある。

 動物は種によって、与えられた諸条件のもとで、テリトリー(縄張り)制によってある程度分散して生活するものがいたり、またあるものはさまざまに組織化された群れを形成する。群れ形成の状態が季節、とくに発情期などによって変化する種も多い。発情期になると、伝統的に定まっている特定の場所に多数の個体が集合する種があり、その場所はレックとよばれる。群れ形成の適応的意義の一つとして外敵に対する防衛があげられる。偶蹄(ぐうてい)類についていえば、一般に森林やブッシュなどにすむ種は群れを形成せず、草原などの開けた場所にすむ種は大きな群れを形成する傾向がある。身を隠すことの容易な生活場所では分散することが、また見通しのよい生活場所では集団中に身を埋めることが、各個体の平均的利益の上昇に結び付くと考えられる。

[桜井道夫]

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