さじ

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

さじ
さじ

食品や薬品などをすくう、混ぜる、あるいは量るための小形の器具。スプーンともいう。主として食器として使われる場合が多く、大きいものは、しゃくし(杓子)とよばれるが、さじとしゃくしとの区分は判然としていない。
 さじは、最初人間が手づかみでものを食べていたのが、やがて熱い料理や汁物などを口にもっていくための道具が必要になり、生まれたものとされている。太古のさじはおそらく貝殻であったと推定され、のちにこれに木などの柄(え)がつけられたのであろう。日本での歴史は新しく、平安時代の『倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』には、中国の『説文解字(せつもんかいじ)』にある「匙(さじ)は飯を取るもの」との説明がそのまま引用されている。『今昔物語集』では、水飯(すいはん)を食べるのに貴族が銀のさじを用いているが、この飯をさじですくって食べるという習慣は長くは続かず、平安時代末期には忘れられてしまった。当時、さじの形はひとひらの蓮(はす)の花弁に似ており、「散蓮華(ちりれんげ)(れんげ)」の名は、のちにこの形にちなんでつけられたという。一方、しゃくしも含めてさじは貝殻に形が似ていたことから、「かい(賀比)」とよばれていた(『新撰(しんせん)字鏡』)。「さじ」という語が用いられるようになるのは鎌倉時代からで、茶道の「茶匙(さし)」が音転したものという。なお、江戸時代の将軍家や大名の侍医を「お匙」とよんだのは、薬を医師が薬匙(やくじ)で取り分けたからで、そのため重病人を見放すことを「匙を投げる」というようになった。
 新石器時代に、西ヨーロッパで土製の素焼のものや動物の骨を削ったさじがつくられるようになった。現在の形になったのは古代エジプト時代で、初めは化粧用、調理用として発達した。さらに古代ギリシア・ローマ時代になると、スープを飲むための器具として用いられるようになるが、広く一般に普及するまでには至らず、食卓の必需品となるのは16世紀末になってからのことである。
 日本では古くから箸(はし)と同様に木・竹製のものが、ヨーロッパでは金属製、中国では陶磁器製というように、それぞれの風土や生活習慣にあった材質のものが使われてきたが、地域によっては角(つの)や骨も使われ、近年にはプラスチック製のものも加わっている。現在、さじは大きさ、形、用途など非常に多くの種類があるが、特殊なものとしては、中国料理用の散蓮華、果物用の先割れ形のもの、底まですくえる柄の長いもの、薬味用の小さなもの、計量用のメジャー・スプーン、抹茶用の茶杓(ちゃしゃく)、薬匙などがあげられる。また、金・銀製、あるいは真鍮(しんちゅう)に銀めっきを施したものなどは、曇りや錆(さび)がとくに出やすいので、磨き剤を用いてつねに手入れをすることがたいせつである。一般に普及しているのはステンレス製で、手入れが簡単なのが利点である。[河野友美・大滝 緑]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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