日本大百科全書(ニッポニカ) 「シッランパー」の意味・わかりやすい解説
シッランパー
しっらんぱー
Frans Eemil Sillanpää
(1888―1964)
フィンランドの小説家。南西部の寒村ハメーンキュロの貧農の家に生まれる。苦学してヘルシンキ大学で生物学、植物学を5年間学んだ。しかし、単位を取得せず、メーテルリンク、ノルウェーの作家ハムスン、ロシア文学などに親しんだり、ヘルシンキ近郊のトゥースラで活動していた芸術家グループに参加し、作曲家シベリウス、画家ハロネンほか、この国のエリートや芸術家に接して刺激を受け、1913年帰郷し、文筆活動に入った。処女作『人生と太陽』(1916)は、若者の熱く激しい愛と限りなく単調な農村生活を、生物学的人間観にたって印象的、叙情的に描いて注目された。独立宣言後の18年に起きた白・赤軍による内戦に触発されて、赤軍に身を投じた無知な一農民の死を描いた長編小説『聖惨』(1919。邦訳名『聖貧』)が彼の出世作となった。不名誉と屈辱的な死に至るほかになす術(すべ)のなかった主人公に、自然科学研究に影響された宿命論がみえ、作品は賛否両論を生んだ。シッランパーの名を世界的に広めた『若く逝きし者』(1931)は、農家の若い病弱な末娘が、薄幸な人生の果てにありながらも微笑を浮かべて迎える死と、大自然の美しさを描き、リアリズムのなかにメーテルリンク風の神秘主義が漂う。貧しい農民の宿命的な人生を自然主義風に描いた一連の作品群によって39年ノーベル文学賞を受賞した。ほかに『男の道』(1932)、『白夜の人々』(1934)など。
[高橋静男]
『桑木務訳『聖貧』(『ノーベル賞文学全集7 ブーニン、バック、シランペー』所収・1971・主婦の友社)』▽『阿部知二訳『若く逝きしもの』(1953・筑摩書房)』