シビルミニマム

デジタル大辞泉 「シビルミニマム」の意味・読み・例文・類語

シビル‐ミニマム

《〈和〉civil+minimum》地方自治体住民のために備えなければならない、最低限生活環境基準。→ナショナルミニマム

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精選版 日本国語大辞典 「シビルミニマム」の意味・読み・例文・類語

シビル‐ミニマム

  1. 〘 名詞 〙 ( 洋語civil minimum ) 都市住民の最低限の生活環境基準。社会保障、教育、衛生、交通機関など、自治体が備えなくてはならない生活環境の最低必要水準をいう。イギリスのウェッブ夫妻らの提唱したナショナル‐ミニマム(national minimum)に対応して作られた語。

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改訂新版 世界大百科事典 「シビルミニマム」の意味・わかりやすい解説

シビル・ミニマム

日本は第2次大戦後,とくに昭和30年代には,国民総生産(GNP)で測って年率で平均10%を超える高い経済成長を達成してきた。この経済成長によって人々の暮しは豊かになってきたが,その一方で1965年前後には,高度経済成長のひずみが強く問題にされるようになってきた。その第1は,公害による生活環境の悪化である。工場排煙による大気汚染工場騒音,工場・家庭排水による河川湖沼海水汚濁,自動車の増加がもたらす排気ガスによる大気汚染,騒音,道路混雑の深刻化などがおもなものである。これらの公害は,大都市ばかりでなく地方でも問題になった。第2は,大都市への人口集中による都市のスプロール化,下水道・公園等の整備の立遅れである。第3は,経済成長の恩恵を受けられない経済的弱者が顕在化したことである。このような社会問題が深刻化するにともない,公害をいかになくすか,都市の住民の生活環境をいかに確保し改善するか,経済的弱者に対する生活保障をどのように行うか,といったような問題が解決すべき緊急の課題とされるにいたった。シビル・ミニマムcivil minimum(和製英語)とは,一人一人市民が権利として当然に享受すべき最低の生活環境と経済的水準をあらわす理念であって,昭和40年代には強い社会的影響力をもった。こうした理念にもとづいて,工場を原因とする公害の規制が厳しく行われるようになり,自動車の排気ガス規制が実施された(自動車排出ガス規制)。生活環境の整備については,社会資本の形成に関して,昭和30年代の生産基盤投資最優先の政策から,昭和40年代に入って生活道路の改良,公園・下水道の整備など生活環境優先の政策へと改められることになった。また低所得者に対して,公営住宅の建設,保育所の整備,老人医療費および幼児医療費の軽減化と無料化,直接的な所得補償などの社会福祉的施策が推進された。

 シビル・ミニマムに類似した言葉にナショナル・ミニマムがある。ほとんど同義語に使われることが多いが,ナショナル・ミニマムには,高度経済成長によって拡大した先進地域と後進地域の間の生活環境や生活水準の格差是正という問題意識が強く含まれている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「シビルミニマム」の意味・わかりやすい解説

シビル・ミニマム
しびるみにまむ

都市における市民の最低限の生活環境基準をいう。これは第二次世界大戦後のイギリスの社会保障に関する「ビバリッジ報告」のなかのナショナル・ミニマムnational minimumの語に示唆を受けて自治体専門家の間で用いられるようになった和製英語である。ナショナル・ミニマムは、地域のいかんにかかわりなく、全国民を対象にして最低限の生活が保障される水準をいうが、これに対し、シビル・ミニマムは、市民が生活を営むうえにおいて地域社会が当然に備えていなければならない最低限の基準、つまり市民が安全、健康、快適、能率的な生活を営むうえにおいて、必要不可欠な最低条件ということができる。日本における高度成長政策は1960年代の後半に、そのひずみを多様な形で噴出する。公害が普遍的な社会問題として顕在化し、乱開発、都市の過密化、モータリゼーションの激化、都市の地価上昇などを招き、都市問題を激化させた。さらに、いわゆる経済的弱者に対する生活保障の問題なども不可避となる。シビル・ミニマムはこうした状況への対応の理念として意図された。具体的には、都市型社会における生活の社会化に伴って必要とされる社会保障、社会資本、社会保険などの整備を目ざす。その基準を設定するのは、市民ないしその自治機構としての自治体である。この理念によって、昭和40年代、自動車排ガス規制などの公害規制、諸医療費の軽減、公園・下水道・公営住宅などの整備が行われた。

[平田和一]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シビルミニマム」の意味・わかりやすい解説

シビル・ミニマム
civil minimum

現代都市における市民生活の必要最小限の基準。イギリスのベバリッジ報告で使われたナショナル・ミニマムをもじった造語で,日本では 1968年 12月の東京都中期計画がこの考え方を採り,その後,革新自治体を中心に自治体計画の策定指針となった。特に革新自治体が好んで用いた概念であり,近代都市が市民のためにそなえるべき教育や医療,住宅,公園,緑など市民生活に関連する社会資本や社会保障の最低基準を数量的に明確化し,施策実施の政策公準としたところに特徴がある。

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世界大百科事典(旧版)内のシビルミニマムの言及

【ナショナル・ミニマム】より

…第一審判決において原告は勝訴したが,第二,三審では第一審判決がくつがえされ,憲法25条は抽象的な権利を示すプログラム規定であり,かつ保護基準そのものにも税金によるものであることに対する国民感情などの生活外的要素を考慮すべきである,などの判断にみられるように,日本ではナショナル・ミニマム論の本来的な意義は否定されたに等しい結論となった。 実質的な最低賃金制が確立されていない日本でのナショナル・ミニマムをめぐる現実は,国民一般の要求水準と大きな隔たりがあるといわざるをえないが,こうした状況に対して,1960年代前半に日本で独自に提唱されたシビル・ミニマムの概念は,地域民主主義に依拠しながら,生活上の諸困難が激化している都市部において,問題意識を〈生存権〉から〈生活権〉へと拡大しつつ,中央政府レベルにおけるナショナル・ミニマム論への先導性を発揮しようとするものといえる。しかし,多くの場合,シビル・ミニマムが法制改革・財政改革へのインパクトを与えるに至らずに,逆に国の設定する最低基準の低さと,都市生活に必要な行政水準とのギャップを,自治体の超過負担で埋めなければならないのが現実であり,社会保障の権利性という観点からみたナショナル・ミニマム論はあいまいなまま残されているといえる。…

※「シビルミニマム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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