ジャヌカン(読み)じゃぬかん(英語表記)Clément Janequin

改訂新版 世界大百科事典 「ジャヌカン」の意味・わかりやすい解説

ジャヌカン
Clément Janequin
生没年:1485ころ-1558

フランスの作曲家。生涯の前半の詳細は不明だが,1534年からはアンジェと地方都市の教会で職を得るかたわら多声(4~6声)のシャンソンを多数作曲し,当時最大のパリの楽譜商アテニャンAttaingnantのもとから出版。49年以降パリに定住,ギーズ公ジャン・ド・ロレーヌの知遇を得てその礼拝堂司祭,次いで王室礼拝堂歌手,没年近くに王室作曲家となったが,いずれも名誉称号にすぎなかったと思われる。作品には世俗シャンソンおよそ250曲,自作シャンソンに基づくミサ曲2,モテット集1冊,詩篇歌曲集2冊,宗教的シャンソン曲集2冊があり,彼ひとりのための曲集が多く編まれるなど,当時の最も人気ある作曲家の一人であった。作風はフランス語の歯切れよさを生かしたリズム,軽い音の織目,巧妙な装飾と擬音効果が特徴で,《マリニャーノの戦》《メッスの戦》《鳥の歌》など描写的なシャンソンがとりわけ有名だが,C.マロ,P.deロンサールらからテキストをとった抒情的なものや,きわどい内容の恋の戯れ歌にも佳品が多い。
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百科事典マイペディア 「ジャヌカン」の意味・わかりやすい解説

ジャヌカン

フランスの作曲家。16世紀フランスの多声シャンソンを代表する作曲家。初期の経歴はほとんど判っていない。ボルドー近在の教会で司祭を歴任後,庇護者の死(1529年)をきっかけに北方のアンジェに移住。1528年にはパリで,《マリニャーノの戦い》《鳥の歌》などの高名な作品を含む最初のシャンソン集が出版された。アンジェでは大聖堂付属聖歌隊学校教師を務める一方,創作活動にも力を入れ,1530年代にシャンソン集4巻をパリで出版。1549年からはパリに住み,1555年王室礼拝堂歌手に就任した。生涯に約250曲の世俗シャンソンを残したほか,ミサ曲モテット集などがある。擬音効果などを盛り込んだ描写的・物語的な表現にすぐれ,フランス語の響きを生かした多声(4〜6声)のシャンソンには,男女の仲や人生の哀感が鮮やかに歌い込まれている。→フランドル楽派

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジャヌカン」の意味・わかりやすい解説

ジャヌカン
じゃぬかん
Clément Janequin
(1485ころ―1558)

フランスの作曲家。シャテルローに生まれる。ボルドー、アンジェで活躍したのち1549年にパリに移り、晩年国王宮廷礼拝堂の一員として活動し、同地に没した。16世紀前半にパリや国王の宮廷を中心に繁栄したポリフォニー・シャンソンの作曲家のうち最大の人物で、およそ250曲のシャンソンを残した。そのほとんどは四声作品で、親しみやすい旋律をもち、ホモフォニーとポリフォニーの技法を巧みに融合した様式によって書かれている。歌われた主題は男女間の率直な恋の喜びや悲しみが多く、赤裸々な性の描写を行っているものもかなりある。また、鳥の鳴き声や戦争の模様などを描写した曲も代表作として知られている。彼は宗教曲の分野でも多くの作品を残したが、とくに詩人マロがフランス語訳した「詩篇(しへん)」に作曲したユグノーの詩篇曲は重要である。

[今谷和徳]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ジャヌカン」の意味・わかりやすい解説

ジャヌカン
Janequin, Clément

[生]1473頃.シャテルロー
[没]1560頃.パリ
フランスの作曲家。ボルドーとアンジューで仕事をしたのち,1549年パリに移った。 55年以後王室付き教会の聖歌隊員となり,アンリ2世から王室付き作曲家としての名誉ある称号を受けたが,王室の経済事情が悪く,称号にふさわしい待遇を受けることもなく貧困のうちに没した。生涯に 400曲に近いシャンソンを作曲,うち 286曲が残っているが,特に有名なのは,標題のつけられたシャンソン『マリニャーノの戦い』『鳥のうた』などで,音による細かい描写がなされている。その他の作品にミサ曲,モテト,詩篇歌などがある。

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世界大百科事典(旧版)内のジャヌカンの言及

【シャンソン】より

…ジョスカン・デ・プレら盛期フランドル楽派においてはさらに,全声部が同じリズムで進行するホモフォニックな部分が適宜挿入され,ポリフォニックな部分との対比づけや楽節区分の明確化を図る手法も目だってきた。 16世紀中葉に向かい,それまでフランドル楽派のいわば国際的様式の中にあったシャンソンは,C.ジャヌカン,セルミジClaudin de Sermisy(1495ころ‐1562),セルトンPierre Certon(?‐1572)ら生粋のフランス人作曲家を中心とするパリ楽派の興隆とともに真にフランス的性格をもつものへと変容し,ここに多声部シャンソンの黄金期が築かれた。今日も広く愛唱されているセルミジの《花咲く齢にある限りTant que vivray》に見られるとおり,4声部で,歌詞の1音節に1音ずつをあてはめる音節作法を軸に,全体はフランス語の語感を生かした軽妙な音の運びが際だつ。…

※「ジャヌカン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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