改訂新版 世界大百科事典 「ジンチョウゲ」の意味・わかりやすい解説
ジンチョウゲ (沈丁花)
Daphne
Daphne odora Thunb.
ジンチョウゲ科の常緑低木で,高さ1.5mくらいになるが,普通は1mくらいで半球状の株になり,早春に枝先に10~20花を頭状に咲かせる。芳香が強く,花弁はなく,花にみえるのは萼で,外面は紫紅色,内面が白色,肉質で頂部は4弁にわかれ平開する。雌雄異株とされているが,花は区別ができない。しかし,雄性で結実しない株が多い。紅色の液果は6月に成熟し,球形で,結実する様は実成りジンチョウゲと呼ばれている。
原産地は中国で,宋の時代より人家で栽培されていた。漢名は瑞香(ずいこう)。園芸種には,花が全部白色のシロバナジンチョウゲ,花の外が淡紅色で内は白色のウスベニジンチョウゲ,葉に黄色の斑(ふ)が入るフクリンジンチョウゲなどの品種がある。繁殖は挿木や実生で行うが,移植はややむずかしい花木である。
ジンチョウゲ属Daphneは100種ほどが,ユーラシア大陸,アフリカ北部,アメリカ大陸などから記録され,東アジアには種数が多い。属名は葉の形がゲッケイジュ(ダフネが変身したという神話がある)に似ているところからついた。すべて低木で,樹皮の靱皮繊維が強く,製紙などに利用される。また,春先に開花するものが多く,ヨーロッパ原産のヨウシュジンチョウゲD.mezereum L.(英名february Daphne)やD.cneorum L.(英名garland flower),中国・台湾原産のサツマフジD.genkwa Sieb.et Zucc.(英名lilac Daphne)などは,いずれも落葉低木で庭木として栽植される。有毒な配糖体のダフニンdaphninなどを含有するものもあるが,薬用とされることがある。
執筆者:中村 恒雄
ジンチョウゲ科Thymelaeaceae
双子葉植物,約50属800種からなり,代表的な種に手すき紙や紐類の原料として用いられるガンピ,ミツマタ,また花が美しく観賞用に植えられるジンチョウゲなどがある。寒帯を除く世界各地に分布する。高木または低木で,ときに細かく分枝する。葉は単葉で互生または対生する。枝端または葉腋(ようえき)から頭状,穂状あるいは散形の花序を出し,花は両性花か,ときに雌雄異株となる。筒状で花弁のようにみえるのは萼で,種々に色づき,その上縁が4~5裂する。まれに萼筒の口に小さな花弁がある。おしべは萼片数の半数ないし2倍。子房は萼筒の底にあり,根もとを花盤が取り囲む。柱頭は1個。液果または乾果を結び,裂開しない。ほとんどの種は靱皮に長くてじょうぶな靱皮繊維を含み,手すき紙,紙幣,コピー用紙の原料や紐などに重用される。一方,多くの属は美しい花を開き,広く観賞用に植えられるものもある。しかし,植物体各部に有毒成分を含むものがあり,液果を食べると中毒死を,また樹液は皮膚にかぶれを起こす。東南アジア産で,香の貴重な材料となるジンコウ(沈香)もこの科に含められる。
執筆者:濱谷 稔夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報