スピライト(読み)すぴらいと(その他表記)spilite

日本大百科全書(ニッポニカ) 「スピライト」の意味・わかりやすい解説

スピライト
すぴらいと
spilite

玄武岩の一種。古い地質時代の海底に噴出したと考えられる玄武岩のなかには、主成分の斜長石が、普通の玄武岩のようにカルシウムに富むものでなく、ナトリウムに富む曹長(そうちょう)石であるものがしばしばみいだされる。この種の玄武岩は、したがって曹長石と輝石を主成分とし、かなりの量の緑泥石チタン石くさび石)を含む。化学組成上も普通の玄武岩に比べてナトリウムに富みカリウムに乏しく、K2O/Na2Oが著しく低い。このような岩石をスピライトという。スピライトは造山帯地域に多いため、このような地域ではスピライト系列という一群の火成岩の生成が特徴的であると考えられたことがあった。しかし現在では、大洋底の玄武岩が生成後、比較的低温の変成作用を受けたため、斜長石が曹長石に、橄欖(かんらん)石やガラス質が緑泥石に変質し、それに伴って化学組成もいくらか変化して、スピライトになったものと考えられている。日本の中生層や古生層に含まれている緑色岩は、鉱物組成や化学組成の上で、スピライトであることが多い。命名はギリシア語で汚点という意味のspilosに由来する。

[橋本光男]

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岩石学辞典 「スピライト」の解説

スピライト

変質した塩基性岩で,一般に多孔状あるいは杏仁状構造を示し,もとの鉱物は変質作用を受けて長石は曹長石となり,輝石は他の鉱物に置き換えられている.蛇紋石化した橄欖(かんらん)石があることがある.炭酸塩鉱物,めのう,ジャスパーなどに富む.しばしば枕状熔岩などに産する.スピライトの名は変質した玄武岩につけられたもので今も用いられているが,この名称は取り除いたほうがよいという考えがある.
スピライトはボナール(Bonnard)によって1819年に使用され,ブロニアールによって,変質した玄武岩質の岩石で二次鉱物に富んでいるものと定義された[Brongniart : 1827].その後フレットは,この語を変換して方解石や緑泥石に富んだ玄武岩質の枕状熔岩に使用した[Flett : 907].デューイとフレットはスピライトと関係のあるNaに富んだドレライト質の岩石を含めてスピライト系列とした[Dewey & Flett : 1917].ケラトファイアもこの系列に含まれている[Vallance : 1960].
スピライトは系列の中で塩基性火山岩のものであり,熔岩あるいは枕状熔岩として産出する.玄武岩質またはドレライト質な組織を示し,曹長石がオージャイト,緑泥石,炭酸塩鉱物,緑簾石パンペリ石や,まれにハイドログロスラールなどに伴われて出現する.スピライトは海洋の地向斜堆積物に非常に普通で,蛇紋岩,チャートなどの岩石と共に産出する.スピライトでは,斜長石が曹長石からオリゴクレースの組成のもので,エジル輝石が含まれている.有色鉱物としては輝石と緑泥石が普通で,斜長石が曹長石になっていることから玄武岩が二次的変化を受けたとの考えがあり,弱い広域変成作用によるとする考え方もある.変化を起こしたH2Oの起源については,内部のH2Oとするか外部から加わったH2Oとするか様々な見方があり,二次的な変化によるものではなくて一次的にH2Oの多いマグマからできたという意見もある[Amstutz : 1974].

スピライト

石灰質片岩[Kinahan : 1873].スピライト(spilite)ではない.

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改訂新版 世界大百科事典 「スピライト」の意味・わかりやすい解説

スピライト
spilite

海底噴出した玄武岩が低度の変成作用や海洋底変質作用を受けてできた岩石。もともとの玄武岩の構造や組織はそのまま変わらずに,Caに富む斜長石が曹長石に,カンラン石や輝石,あるいはガラスの部分が,緑泥石,緑レン石,アクチノライト,粘土鉱物に置きかわる。そのために岩石の化学成分はNa,Fe2O3や水分が増加し,Ca,Mgが減少する。古い時代に海底噴出した枕状溶岩はほとんどスピライトに変わっている。かつてはスピライトは変質岩ではなく,Naに富む特殊なマグマ(スピライトマグマ)から生じたという説があった。その後,低度変成作用や海洋底玄武岩の研究が進み,玄武岩からスピライトへ連続的に変化していること,実験的にも海水との反応で玄武岩がスピライトに変わることが実証された。日本の第三紀グリーンタフ層の枕状玄武岩,中生代地向斜堆積物中の枕状玄武岩の多くはスピライトに変わっている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スピライト」の意味・わかりやすい解説

スピライト
spilite

一般に非顕晶質の,緑色ないし暗緑灰色で,細粒の玄武岩質火山岩。緑泥石や方解石,ある種の沸石などで満たされた気孔や杏仁状構造を含む。ナトリウムに富み,曹長石成分に富む斜長石を主成分鉱物とし,緑泥石,蛇紋石,方解石,緑簾石,アクチノ閃石などを含み,緑色片岩相の鉱物組合せに類似する。しばしば海底における溶岩流に特徴的な枕状構造を示し,海底に噴出した玄武岩が変質あるいは変成作用を受けたものと考えられている。火山活動を伴った地向斜の堆積物の中に広く分布する。

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百科事典マイペディア 「スピライト」の意味・わかりやすい解説

スピライト

玄武岩質岩石で,ソウ長石ないし灰ソウ長石,白チタン石に変わりつつあるチタン鉄鉱,普通輝石の残晶をもち,変質物として緑泥石,方解石,緑レン石などを含むもの。枕(まくら)状溶岩として海成層にともなわれる。

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