ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「セメンザ」の意味・わかりやすい解説
セメンザ
Semenza, Gregg L.
グレッグ・L.セメンザ。アメリカ合衆国の医師,医学者。フルネーム Gregg Leonard Semenza。細胞が酸素を利用したり調節したりする仕組みの研究や,細胞内で利用可能な酸素量が減ると活性化し,特定の病態において細胞が生き延びるのに重要な役割を果たす低酸素誘導因子 HIFの発見で知られる。細胞内での酸素量の減少をおもな特徴とする癌や虚血性心疾患などに対する新たな治療法の研究開発に道を開き,2019年,アメリカのウィリアム・G.ケーリンとイギリスのピーター・J.ラトクリフとともにノーベル生理学・医学賞(→ノーベル賞)を受賞した。
ハーバード大学でダウン症候群における染色体異常を中心に小児遺伝学を学び,1978年に学士号を取得。その後ペンシルバニア大学で研究を続け,1984年に医学博士号を取得。デューク大学での小児科研修を経て,1986年ジョンズ・ホプキンズ大学で遺伝医学の博士研究員となる。1990年に同大学の教員となり研究室を設立。その後,同大学細胞工学研究所の血管研究部門の責任者に就任した。
1980年代後半,細胞が酸素量の変化に応答するメカニズムに興味をいだく。細胞が低酸素状態に応答してエリスロポエチン EPOというホルモンを産生することは知られていたが,この応答を制御する遺伝メカニズムについてはほとんど解明されていなかった。セメンザは細胞の低酸素濃度への反応を制御する遺伝因子の探究を進めるなかで,HIFを発見。研究仲間とともに,HIFが酸素の有無に対する細胞の多様な応答を制御し,特に低酸素状況への応答を決定づけることをつきとめた。HIFは,低酸素下では著しく増加するのに対し,通常の酸素濃度下では発現が抑えられる。その後,癌における HIFの働きを調べたところ,低酸素下で発現が増加した HIFによって腫瘍細胞が成長し,増殖することが認められた。また,心臓への血流減少が酸素運搬量の減少を引き起こす虚血性心疾患に対する新たな治療法の研究も行なった。
2010年ガードナー国際賞,2016年アルバート・ラスカー基礎医学研究賞をケーリン,ラトクリフとともに受賞するなど受賞多数。2008年アメリカ科学アカデミー,2012年アメリカ医学アカデミー会員。
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