セーヌ川(読み)せーぬがわ(英語表記)la Seine

日本大百科全書(ニッポニカ) 「セーヌ川」の意味・わかりやすい解説

セーヌ川
せーぬがわ
la Seine

フランス北部、同国の心臓部であるイル・ド・フランス地方を潤し、首都パリを貫流するフランスの代表的河川。全長776キロメートルで、ロアール川に次ぐフランス第二の川である(ローヌ川は全長812キロメートル中290キロメートルがスイス領)。流域面積7万8650平方キロメートルは全国土の約7分の1を占める。コート・ドール県のラングル高地の標高471メートル地点に発し、西北流してシャンパーニュ地方の南部を流れる。トロアを経てオーブ川(右岸)をあわせ、西南流してモントロー付近でヨンヌ川(左岸)を合流、西北流してイル・ド・フランスに至る。パリの上流マルヌ川(右岸)、下流でオアーズ川(右岸)と合流、イル・ド・フランス地方を抜けてノルマンディー地方に入り、ルーアンを経、ル・アーブル(北)とオンフルール(南)の間に大きな三角江(エスチュエール)をつくって、イギリス海峡に臨むセーヌ湾に流れ込む。パリ付近より下流はとくに蛇行(メアンダー)が著しい。

 流域はトロアで標高113メートル、モントローで50メートル、パリで25メートルと緩傾斜で、流量もパリで1、2月毎秒500立方メートル、8月100立方メートルと季節的な違いが大きい。そのため水力資源としては大きな価値をもたないが、水運の大動脈としては重要で、パリまでは4800トン、モントローまでは3200トンの船が遡航(そこう)できる。運河により、ソンム、エスコー(スヘルデ)、ムーズ、ライン、ソーヌ、ロアールの各河川と結ばれ、その水運網はフランスの全河川交通量の3分の1を占める。また、パリ―ル・アーブル間は、自動車、石油化学、セメント工業を中心とする大工業地帯で、近年は公害問題もおこりつつある。1966年トロアの東20キロメートルにセーヌ貯水ダム(水面2300ヘクタール、貯水量2億0500万立方メートル)が完成、セーヌ川の流量の調節や水力発電のほかに、観光やレクリエーションにも利用されている。

 セーヌ川はパリの地形や風景に大きな影響を与えている。南東方向からパリ市に入ったセーヌ川は、中心部をほぼ東から西へ流れ、南西で市外へ流れ出たのち、南北に大きく蛇行する。中心部にはサン・ルイ島とシテ島の両川中島があり、シテ島はパリ発祥の地である。市はセーヌ川を挟んで大きく右岸と左岸に分けられる。両岸と二つの川中島を結ぶ橋の数も多く、河岸は市民や観光客のかっこうの散策地となっている。

[高橋 正]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「セーヌ川」の意味・わかりやすい解説

セーヌ川
セーヌがわ
Seine

フランス東部,ラングル高原に発し,パリ盆地をほぼ北西流してイギリス海峡に注ぐ川。全長 776km。コートドール県のほぼ中央,ディジョン北西の標高 471mに発し,シャティヨン山地を刻んで北西流し,肥沃な湿潤シャンパーニュ地方を横切り,トロアからは乾燥シャンパーニュ地方に入って緑地帯を形成し,マルシーでオーブ川と合流。さらに西流してモントローフォーティヨンヌでヨンヌ川と合流して北西に向きを変え,イルドフランス地方に入る。パリ付近で大きく曲流し始め,下流から細長い三角江にかけてのノルマンディー地方では,沿岸にルーアン,ルアーブルなどの工業地帯,港湾都市を形成し,イギリス海峡のセーヌ湾に注ぐ。セーヌ川は全体として落差が少なく,水量も比較的安定しているため,船運に便利で,パリはフランス第1の河港都市となっている。川と並行してオートセーヌ運河が通じるなど,多数の運河,支流によってライン,ロアール両水系などと結ばれ,ヨーロッパ大陸中部の水運網のかなめの一つとなっている。

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