フランスの社会思想家。シェルブール生まれ。理工科大学校(エコール・ポリテクニク)を中退後、45歳(1892)まで土木技術官僚であったが退職し、余生を文筆生活に捧(ささ)げた。ドレフュス事件に揺れる「世紀末」のフランスにあって、深刻な危機意識を抱いた彼は、マルクスの社会革命論に西欧のデカダンスを突破する手掛りを求め、これにプルードンやベルクソン、さらにはサンジカリストのペルーチエなどから学んだ思想を織り交ぜて独特の「社会神話」論を唱えた。その主著『暴力論』では、ドイツのベルンシュタイン流の議会主義的マルクス主義を排斥し、労働者と資本家の直接的な激突(暴力)に崇高な社会倫理の高揚をみいだした。このモデルは当時フランスで盛んであったサンジカリストの「直接行動」であり、ソレルは、彼らのゼネストによる社会革命こそ労働の尊厳に基づく新しいモラルの確立をもたらすものと期待した。
しかしサンジカリストの運動は挫折(ざせつ)し、それに失望したソレルは逆に、第一次世界大戦直前まで右翼王党派の「アクシオン・フランセーズ」に接近するが、ロシア革命の報を聞くや、今度はレーニンを熱烈に賛美した。彼のこうした複雑で矛盾に満ちた思想と行動は、その反議会制民主主義の主張のためか、ボリシェビズムやファシズムをはじめとする左右両極の社会運動に、少なからぬ影響を与えたといわれている。
[谷川 稔]
『今村仁司・塚原史訳『暴力論』上下(岩波文庫)』▽『川上源太郎訳『進歩の幻想』(『現代思想Ⅱ』所収・1974・ダイヤモンド社)』▽『S・ヒューズ著、荒川幾男・生松敬三訳『意識と社会』(1965・みすず書房)』
フランスの小説家、雑書作者。パリに生まれ没す。放縦(ほうしょう)な生活を送り、窮迫した生涯を過ごす。早くより多くの小説を書いていたが、おもな作品は、ルイ13世治下の社会の各層を活写した、17世紀現実派小説の代表作『フランシヨン滑稽(こっけい)物語』la Vraie histoire comique de Francion(1623~33)、当時流行した牧人小説のパロディーである『とっぴな羊飼い』le Berger extravagant(1627)、金融業者を中心とするブルジョア社会を描いた『ポリアンドル』(1648)などがある。なお、17世紀文学研究の貴重な資料である『フランス書誌』(1664)ほか、神学、科学、歴史などに関する雑書多数がある。
[渡邊明正]
フランスのサンディカリストの理論的指導者。シェルブール生れ。エコール・ポリテクニクに学び,2年で中退後,25年間にわたって政府の技師として働いた。その後,フランスの労働組合運動(サンディカリスム)に取り組み,その理論的指導を行ったために,1892年以降,文筆活動に専念する。彼は,マルクスやプルードンの影響の下に,資本主義打倒の道をフランス労働運動の実践のなかに求めていったが,その理論的集大成が,1908年に公刊された《暴力論》である。そこでは,ブルジョアジーの暴力forceに対抗するには,プロレタリアートの暴力violenceが必要であること,そしてその具体的方法としてゼネストがあることが説かれている。しかし,彼の説く直接行動主義は,その経済第一主義,非政治性のために,政治的にはあいまいな解釈を許すことになり,その後,左右両翼の諸運動がソレルのサンディカリスムに,その理論的支柱を見いだすことになった。左翼のほうでは,レーニンのボリシェビズムやイタリアのA.グラムシが大きな影響を受けているし,右翼についても,ムッソリーニに対するソレルの決定的な影響は特筆されてよい。彼は,1917年のロシア革命に大きな喜びを見いだし,レーニンを弁護するが,世を去ったのは,奇しくもムッソリーニがローマ進軍を敢行する直前であった。
執筆者:舛添 要一
フランスの作家。パリの町民の家に生まれ,リジュー学院に学ぶ。1635年に叔父から修史官の官職を買いとり,生涯その職にあった。17歳頃から文筆活動をはじめて文学のほか歴史,哲学などの分野にも筆を染め,多くの作品を残してパリに没した。代表作は《フランシヨンこっけい物語》(1623-33)で,若い貴族フランシヨンの遍歴を軸としながら,同時代の貴族,町民,農民さらには文士,娼婦,浮浪人,また法曹界や学校生活などが生き生きと描かれ,スカロンの《こっけい物語》,フュルティエールの《町民物語》とならんで,17世紀の風刺的写実小説の傑作とされているが,そこにはまた同時代の社会の宗教的・道徳的・政治的基盤にたいする鋭い批判や自由な生命力の礼賛,情念の解放の称揚など自由思想家的色彩も見られる。ほかに《ドン・キホーテ》を模して当時流行の牧人小説のパロディを意図した“反小説”《とほうもない羊飼い》(1627-28),金融業者を中心にパリの町民の風俗を克明に描いた《ポリヤンドル》(1648),文学・人文関係の著作に関する貴重な《フランス書誌》(1664)などがある。
執筆者:赤木 昭三
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1847~1922
フランスの政治思想家。その思想はマルクス,プルードン,ベルグソンの影響を受け多様に変化した。人間の道徳的エネルギーが,歴史において決定的役割を果たすと強調した。主著『暴力論』。
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…欧米ではとくに好まれ,栽培されて緑色野菜としてサラダやソースの材料に用いられる。英名のソレルsorrelはフランス語surrelle(〈酸っぱい〉を意味するsurから)に由来する。しかし多量に食べると下痢や嘔吐などの中毒をおこす。…
…以下はこの用法に従っている。なお,この運動に示唆を受けて独自の理論を展開したG.ソレルらの思想をサンディカリスムと称した例がかつて見られたが,今日ではこの用法は行われていない。
[サンディカリスムの成立]
1860年代に出現したフランス労働組合運動は80年代後半にいたって本格的発展を迎えるが,二つの歴史的条件がその展開を規定した。…
…その限りで,暴力は倫理的でさえありうる。こうした暴力の倫理性を強く主張したのが,G.ソレルの《暴力論》であった。ソレルは,ブルジョアジーが国家機構を通じて行使する力をフォルスforceと呼び,プロレタリアートが革命の際,対抗的に行使する力をビオランスviolenceと呼んで,フォルスの非倫理性に対してビオランスの倫理性を対置した。…
※「ソレル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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