改訂新版 世界大百科事典 「タイランチョウ」の意味・わかりやすい解説
タイランチョウ
tyrant-flycatcher
スズメ目タイランチョウ科Tyrannidaeの鳥の総称。この科は約115属360種に及ぶたくさんの種からなり,南北アメリカに分布している。とくに南アメリカにすむ種が多い。タイランチョウ科は,旧世界でヒタキ科が占めている生態的地位を新世界で占めている。タイランチョウ類の多くは,ヒタキ類のような幅の広いくちばしとよく発達した口ひげをもち,ヒタキ類のように,止り場から飛び出して飛んでくる昆虫類を捕食する。しかし,スズメ目の科が比較的少ない新世界では,タイランチョウ科の鳥は,都市の公園や耕地から熱帯多雨林まで,また低地からアンデスの高山帯まで,ほとんどあらゆる生息環境にすみ,さまざまな採食様式に適応放散している。大部分の種は樹上生だが,地上生の種や水辺にすむ種もあり,採食様式はヒタキ型,ツグミ型,ムシクイ型,モズ型などが見られる。このため,タイランチョウ科を特徴づけることは非常にむずかしい。
全長8~41cm。羽色はさまざまで,灰色,褐色,オリーブ緑色のものが多く,黒色,白色,黄色などを主色とするものも少なくない。ベニタイランチョウPyrocephalus rubinusの雄は,頭上と下面が濃い赤色で,はでな色をしている。冠羽をもったものもあり,オナガタイランチョウTyrannus forficatusでは尾が非常に長い。脚は,地上生のものを除いて小さく弱い。食物は昆虫類が主食で,果実や漿果(しようか)をときどき食べ,オオタイランチョウPitangus sulphratusのような大型種はトカゲ,カエル,ネズミ,小鳥の雛なども餌とする。巣も種や生息環境によってさまざまで,多くのものはわん型の巣を枝の上につくるが,壺型や垂れ下がった袋状の巣をつくるもの,樹洞や地下の穴に営巣するもの,地面に営巣するものなど,非常に変化に富んでいる。また,一部の種では(TolmomyiasおよびCamptostoma属),敵から巣を守るために,わざわざ猛毒なハチやアリの巣のそばを選んで営巣する。1腹の卵は2~6個。多くの場合抱卵は雌が行い,雌雄で育雛(いくすう)する。代表的な属は,ヒタキタイランチョウTyrannus(英名kingbird。13種),オオタイランチョウPitangus(英名kiskadee。2種),カンムリタイランチョウMyiarchus(英名crested flycatcher。22種),メジロタイランチョウEmpidonax(英名flycatcher。16種),ツキタイランチョウSayornis(英名phoebe。3種),モリタイランチョウContopus(英名wood-pewee。10種)などがあり,とくに北アメリカのものは属によって別々の英名がついている。メジロタイランチョウやカンムリタイランチョウ類は非常によく似た種が多く,しばしば形態や羽色より,鳴声によって種の識別ができる。和名のタイランチョウ(太蘭鳥)は,英語のtyrant-flycatcherの当て字である。
エイシチョウOxyruncus cristatus(鋭嘴鳥。英名sharpbillまたはcrested sharpbill)は,その名のように鋭くとがったくちばしをもち,解剖学上の特徴も特殊なので,独立のエイシチョウ科Oxyruncidaeに分類されたり,タイランチョウのあるものと羽色が似ていることから,タイランチョウ科に分類されたりしている。全長約17cm。羽色は背面が淡緑色で,胸腹部は淡黄白色に黒色斑がある。頭上の冠羽は橙色。中央・南アメリカの山地の熱帯林にすんでいるが,その生態はほとんどわかっていない。一名トガリハシ(尖嘴)ともいう。
執筆者:森岡 弘之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報