南北回帰線に挟まれた地域に分布する森林で、熱帯雨林、雨緑林などからなる。1981年の国連食糧農業機関(FAO)報告によれば、その面積は19億ヘクタールと、世界中の森林面積(43億ヘクタール)の半分近くを占めている。燃料や用材を産み出す資源であるが、近年は生態系や遺伝子資源の保全、二酸化炭素(CO2)の吸収による地球温暖化の抑制などでも、その重要性が再認識されている。
しかし、その面積は急激に減少していることがわかり、問題となった。1981年のFAO報告では、減少は毎年1130万ヘクタール、つまり日本の本州の約半分の面積と予測されていた。ところが、FAOはその後の報告で、1981年から10年間の毎年の減少面積は1540万ヘクタールに上ると修正、加速度的に熱帯林消滅が進んでいることを警告している。耕作地をつくるために焼き払われたり、燃料用の伐採、過度な放牧、不適切な商業用伐採などが進められたためだが、その背景には熱帯地域での人口増や森林管理の資金不足などが指摘されている。
熱帯林の減少は、地域住民の生活に必要なエネルギーの不足、洪水や渇水の発生、さらに土壌の侵食・流出を招く。また、熱帯林には地上の生物の少なくとも半分が生息するとされ、膨大な未知の遺伝子が存在しているだけに、貴重な生態系の破壊にもつながる。
一方、熱帯林をはじめとした植物の光合成はCO2を吸収して酸素をつくりだすため、「地球の肺」ともよばれる。樹齢の若い生育の盛んな森林なら1ヘクタール当り年間2.7トン(炭素換算)のCO2を吸収するとされているが、これは日本など先進国の国民1人当りのCO2年間排出量にほぼ匹敵する。地球温暖化はCO2の大気中濃度の上昇が主因とされるだけに、その点でも熱帯林は重要である。
1992年、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された環境と開発に関する国連会議では、こうした森林について、途上国が持続可能な開発を進めるにあたっては、資金、技術面での国際的な支援がなされるべきだとする「森林原則声明」が採択された。
[横田弘幸]
… 人類の文明が開始されて以来,木材の使用量の増大や開拓地の拡大により,森林は絶えず減少してきた。しかし近年とりわけ問題となっているのは熱帯林の急激な減少や劣化である。国連食糧農業機関(FAO)の調査によれば,熱帯林は1981‐90年の10年間,毎年1540万haの割合で減少している。…
※「熱帯林」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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