家庭医学館 「たばこ中毒」の解説
たばこちゅうどくにこちんちゅうどく【たばこ中毒(ニコチン中毒) Tobacco Poisoning】
たばこには、天然アルカロイドの一種のニコチンが含まれていて、これが毒性を発揮して、中毒がおこります。
家庭では、このたばこを食べてしまう事故が、生後12か月未満、とくに生後8か月くらいの赤ちゃんによくおこります。しかし、ニコチンには、嘔吐(おうと)をおこさせる作用があって、自分からすぐに吐(は)き出すことが多いですし、ニコチンは、胃から吸収される速度はゆっくりなので、赤ちゃんに重い中毒がおこることはまれです。
灰皿替わりに使用していた缶に残っていたジュースや清涼飲料を飲んでおこる中毒は、おとな、子どもを問わずおこります。
水に溶けたニコチンは、胃からの吸収が速くなるので、この場合は、重い中毒になることがあります。
[症状]
体内に入ったニコチンの量が少ないと、神経の刺激症状がおこり、量が多いとまひが現われます。
●量が少ないときの症状
震え、けいれん、呼吸数の増加がおこり、頭痛、めまい、錯乱、脱力感をともないます。血圧上昇、頻脈(ひんみゃく)、四肢(しし)(手足)の冷感、顔面蒼白(がんめんそうはく)、発汗などもみられます。
吐(は)き気(け)・嘔吐、腹痛、下痢(げり)のほか、よだれ、たんも出ます。
●量が多いときの症状
呼吸数が減り、血圧の低下、徐脈(じょみゃく)・心房細動(しんぼうさいどう)・房室(ぼうしつ)ブロックなどの不整脈(ふせいみゃく)もおこります。呼吸停止がおこって死亡することもあります。
[治療]
たばこの入った缶のジュースなどを飲んだ場合は、おとな、子どもを問わずすぐに受診します。
おとなのニコチンの致死量は50mgで、たばこ2本分のニコチンが溶けていれば命にかかわる計算になります。
●子どもが食べたときの対応
まず、口の中に指を入れて吐かせます(「食中毒が疑われるときの手当」)。吐かせる前に牛乳や水を飲ませてはいけません。たばこを小腸のほうへ押し込む危険があります。なにも飲ませずに吐かせます。
子どもで、食べた量が2分の1本以下であれば、多少の症状があっても、家庭でようすを見ます。
2時間以上たっても症状が現われない、軽い症状があっても増悪(ぞうあく)の気配がみられないといったときは、たいていは自然に快方に向かいます。4時間たって、なんでもなければ安心です。
食べた量が2分の1本以上であれば受診します。
けいれんがおこればジアゼパム、吐き気・嘔吐、腹痛、下痢、よだれ、たんがひどければアトロピンの注射が必要になります。