練香(ねりこう)・抹香(まっこう)を線状にこしらえたもの。原料は沈香(じんこう)、丁字(ちょうじ)、白檀(びゃくだん)、麝香(じゃこう)などで、燃焼を助けるための松脂(まつやに)、接着材として蜜(みつ)や糊(のり)、それに黄土、緑、茶、黒などの染料を加えて練り、底に多くの穴をあけた容器に入れて押し出し、切って乾かす。杉の葉を干して香水をふりかけてつくったものも多く出回っている。中国では竹を芯(しん)にして香を塗り固めたものがあるが、日本ではみかけない。香は元来、香木の多いインドなど熱帯地方に発達し、体臭などを消すことがおもな目的であったが、早くから仏教に結び付き、心の浄化作用の面が強調された。また簡便な形の香ということで線香が考案された。日本には江戸時代の初期に中国から伝来し、仏教行事や葬式・供養のとき、香炉の灰に立ててくゆらす。死者の枕元(まくらもと)に立てるときは、霊が迷わぬようにと1本だけ立て、また煙のなびく方角から霊の行方を考えたりすることもある。沖縄では神祭りにも広く用いられ、本州でも火の神を祭るためにいろりの灰に立てる例がある。落雷除(よ)けの呪法(じゅほう)として、蚊帳(かや)の中にこもって線香を燃やすことも広く知られている。火もちがよいので灸(きゅう)のときにも使う。便所に立てて臭みを消すことにも使われた。蚊取線香は除虫菊の成分を混ぜて、渦巻状につくったものである。
[井之口章次]
法会や葬送の際に仏壇や墓地などで焚かれる線状の香。仙香,繊香,綫香,長寿香とも記す。沈香(じんこう),丁子(ちようじ),白檀(びやくだん),安息香などの香料を松やになどで固めてつくる。《和漢三才図会》は楡(にれ)の皮の糊に海蘿(のり)を加えてつくれば折れにくいと記す。焼香は古くから行われ,《日本書紀》皇極天皇元年(642)条に,法会で蘇我蝦夷が香炉を取り,焼香礼拝したとある。当時は粉末の抹香(まつこう)を焚く方法であり,平安時代には蜜などで香料を丸状に固めた練香(ねりこう)を焚く方法も生じた。線香は16世紀中葉に中国から伝来し,17世紀中葉ころから,日本でもつくられるようになったらしい。仏の供養,仏を供養する人のにおい消しの両義が焼香にはある。精霊迎えの松明(たいまつ)代りや芸妓の揚げ代の時間計りにも線香が利用された。防虫用として,成分に除虫菊を混ぜて渦巻状にした蚊取線香がある。
執筆者:赤田 光男
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