タントラ仏教(読み)たんとらぶっきょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「タントラ仏教」の意味・わかりやすい解説

タントラ仏教
たんとらぶっきょう

タントラtantraとよばれる聖典に基づく仏教密教別名。タントラとは、一説に、スートラ=経(たて糸)に対して緯(よこ糸)を意味するとされるが、事実、タントラ文献は、それまでのスートラの仏教においては禁忌であった性的な表現と性的な実践を意識的に導入した点に特色があり、この意味でタントラ仏教は、通常の穏健な密教(右道)に対して、堕落した、いかがわしいというマイナスの評価を負う左道密教の同義語とされる。しかし、後代になると密教文献はすべてタントラとみなされ、(1)所作(しょさ)タントラ、(2)行(ぎょう)タントラ、(3)瑜伽(ゆが)タントラ、(4)無上瑜伽タントラの4種に分類された。これらのうち、(1)はいわゆる雑密(ぞうみつ)(雑部密教)経典に対応する。純密(純粋密教)の『大日経』は(2)に、同じく『金剛頂経(こんごうちょうぎょう)』は(3)に属する。なお、密教の典籍がタントラとよばれるようになるのは、『金剛頂経』の付録部分からである。(4)はさらに〔1〕方便(ほうべん)タントラ(父タントラ)、〔2〕般若(はんにゃ)タントラ(母タントラ)、〔3〕般若方便タントラ(不二(ふに)タントラ)に分けられる。父タントラの代表は『秘密集会タントラ』であり、『ヘーバジュラ・タントラ』やサンバラ系の諸タントラは母タントラに属してタントラ仏教のピークを現出する。『時輪(じりん)タントラ』は不二タントラとされる。

[津田眞一]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「タントラ仏教」の意味・わかりやすい解説

タントラ仏教
タントラぶっきょう
Tantric Buddhism

7世紀頃からインドに栄えたタントラ教の影響を受けた秘密仏教。現世の幸福,快楽を肯定し,衆生は本来仏性をもつということから,大日如来を中心とする諸仏を念じ,陀羅尼を誦し,曼荼羅印契などを用いる特有の儀礼修行にあずかることにより,究極の真理に達し,仏となることができるとするもの。インドでは 770年頃にダルマパーラ王が建立したガンジス川河岸のビクラマシーラ寺院がタントラ仏教の中心道場となったが,8世紀に仏教がチベットに伝えられたときに,タントラ仏教の学者パドマサンババによって紹介され,チベット古来のポン教と混合して,特異な発達をとげた。

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