デジタル大辞泉
「方便」の意味・読み・例文・類語
た‐ずき〔たづき〕【方=便/活=計】
《「手付き」の意。「たつき」とも》
1 生活の手段。生計。
「此地に善き世渡の―あらば」〈鴎外・舞姫〉
2 事をなすためのよりどころ。たより。よるべ。
「言ふすべの―もなきは我が身なりけり」〈万・四〇七八〉
3 ようす。状態。また、それを知る手がかり。
「世の中の繁き仮廬に住み住みて至らむ国の―知らずも」〈万・三八五〇〉
た‐どき【方=便】
「たずき」に同じ。
「立ちて居て―を知らにむら肝の心いさよひ」〈万・二〇九二〉
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
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ほう‐べんハウ‥【方便】
- [ 1 ] 〘 名詞 〙
- ① ( [梵語] upāya の意訳 ) 仏語。仏教で、下根(げこん)の衆生を真の教えに導くために用いる便宜的な手段。また、その手段を用いること。法便。
- [初出の実例]「凡虚妄者、非レ善言レ善、非レ悪言レ悪、欲レ賊二前人一是名二虚妄一、如来雖二復非レ三面三一、只欲レ利レ物、可レ言二方便一、何是虚妄」(出典:法華義疏(7C前)一)
- 「もしよの人の畜生をころさむをみん時は方便してすくひたすけよ」(出典:観智院本三宝絵(984)下)
- ② とくに、密教では、自利と利他、向上と向下の両義にとり、自利、利他の実践を完成することとする。〔大日経‐一〕
- ③ 目的のために利用される一時の手段。また、その手段を用いること。てだて。たばかり。計略。「嘘も方便」
- [初出の実例]「其雖レ叙レ位、逗留方便、違レ主失レ礼、即追二其位一、還二之本貫一」(出典:続日本紀‐和銅四年(711)五月辛亥)
- 「何にもして南山より盗出し奉らんと方便(はうベン)廻されけれ共」(出典:太平記(14C後)三二)
- [ 2 ] 〘 形容動詞ナリ活用 〙 都合のよいさま。
- [初出の実例]「ホンニホンニ御方便(ホウベン)な物でございます」(出典:滑稽本・浮世風呂(1809‐13)三)
た‐ずき‥づき【方便・活計】
- 〘 名詞 〙 ( 後世は「たつき」「たつぎ」とも )
- ① 手がかり。よるべき手段。方法。よるべ。
- [初出の実例]「恋ふといふはえも名づけたり言ふすべの多豆伎(タヅキ)もなきは吾が身なりけり」(出典:万葉集(8C後)一八・四〇七八)
- 「又もとはやむごとなきすぢなれど、世にふるたつきすくなく」(出典:源氏物語(1001‐14頃)帚木)
- 「学問して因果の理をも知り、説経などして世渡るたづきともせよ」(出典:徒然草(1331頃)一八八)
- ② 様子・状態を知る手段。見当。
- [初出の実例]「世の中の繁き仮廬に住み住みて至らむ国の多附(たづき)知らずも」(出典:万葉集(8C後)一六・三八五〇)
- 「いかにして言ひ寄るべきたつきもおぼえねども」(出典:御伽草子・あしびき(室町中))
- ③ 生活の手段。生計。たつ。
- [初出の実例]「世渡るたづき中々にとめぬ月日の数そへて」(出典:浮世草子・宗祇諸国物語(1685)四)
- 「つひに貞七に暇を出しぬ。されば貞七は活計(タツキ)失ひ」(出典:当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉一六)
方便の補助注記
語形はタヅキが古い形であろうが、母音が交替した形であるタドキも併存した。「万葉‐二四八一」には「跡状(たどき)」と表記した例があり、これは様子や状態の意を表わしたものであろう。
た‐どき【方便】
- 〘 名詞 〙 =たずき(方便)
- [初出の実例]「思はぬに 横しま風の にふふかに 覆ひ来ぬれば せむすべの 多杼伎(タドキ)を知らに」(出典:万葉集(8C後)五・九〇四)
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例
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方便 (ほうべん)
一般的には〈方法〉〈巧みなてだて〉ということ。ただし,仏教で方便を用いる場合は基本的に,すぐれた教化(きようけ)方法,サンスクリットのupāya-kauśalya(善巧方便)ということであり,衆生を真実の教えに導くためにかりに設けた教えの意味である。経典・論釈のみならず,文学作品などに用いられる場合,微妙な意味の変化がみられるが,基本の意味をふまえることによって理解できよう。とくに《法華経》では方便を開いて真実をあらわすことが大きなテーマになっており,〈方便品〉では〈三乗(さんじよう)が一乗(いちじよう)の方便である〉という。すなわち,小乗のさとりを求める声聞乗(しようもんじよう)・縁覚乗(えんがくじよう)も,大乗のさとりを求める菩薩乗も,すべて仏陀のさとりそのもの(一仏乗)に至らしめる方便であるという。また〈如来寿量品〉では,釈迦がインドのブッダガヤーの菩提樹の下でさとりを開いた(始成正覚)というのは方便で,真実は永遠の過去からすでに久遠の仏陀であったことを明かす。なお,〈うそも方便〉とは,これらの教えが俗化したことわざである。
執筆者:渡辺 宝陽
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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方便
ほうべん
サンスクリット語のウパーヤupāya(近づく、到達する意)の訳。仏教の教えや実践がむずかしくて、一般の人々に理解しがたく実行しがたいのを、彼らを教え導いて、仏教に親しみ、仏教の本旨に到達させるために考案された巧みな手段をいう。とくに仏教が民衆化した大乗仏教において、さまざまな方便が語られ、大乗仏教経典は「方便品(ほん)」を設けている例が少なくない。とくに『法華経(ほけきょう)』のそれは名高い。方便が非常に重要視されて、六波羅蜜(ろっぱらみつ)に次いで方便波羅蜜(はらみつ)がたてられることもあり、密教は方便を究竟(くきょう)(最高)とする。また中国仏教では、方便のあり方を種々に分類する。のち俗語に転化し、「嘘(うそ)も方便」などと、目的に対して利用される便宜的な手段、過渡的な方法をいい、日本語ではかならずしもよい意味だけに用いられるとは限らない。
[三枝充悳]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
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方便
ほうべん
upāya
仏教用語。原義は近づく,到達するの意。仏陀が衆生を導くために用いる方法,手段,あるいは真実に近づくための準備的な加行 (けぎょう) などをいう。転じて「嘘も方便」などの用例にみられるように,目的のために用いられる便宜的手段などをいうこともある。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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普及版 字通
「方便」の読み・字形・画数・意味
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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世界大百科事典(旧版)内の方便の言及
【般若】より
…それらは《大般若波羅蜜多経》600巻(玄奘訳)として集大成された。さらに密教では,〈般若〉と〈[方便](ほうべん)〉(ウパーヤupāya)とがあいまってはじめて解脱が成就されると説かれた。真理たる〈般若〉を体得するためには,手段としての〈方便〉が必要だからである。…
※「方便」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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