日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
テイヤール・ド・シャルダン
ていやーるどしゃるだん
Pierre Teilhard de Chardin
(1881―1955)
フランスの地質学者、古生物学者、思想家。イエズス会所属の司祭でもあった。オルシーヌに生まれる。少年時代から地質や化石について興味をもち、神学研究のかたわら実証科学の研究をも深めていった。第一次世界大戦中は担架兵として前線で活躍、戦後はパリで古生物学の研究に精進した。1923年、招かれて中国北西部の学術調査団に参加。その後もたびたび中国各地を旅行、また北京原人(ペキンげんじん)の発掘に参加し、その研究で世界的に著名な学者となった。1946年帰国、1948年フランス科学院会員に選ばれ、ついでコレージュ・ド・フランスの教授の候補にもなったが、修道会の許可が得られず断念した。1951年人類学研究のため南アフリカへ調査旅行し、それ以後最後の数年間、ニューヨークを根拠地として科学研究に携わるとともに、哲学的な論文をも執筆した。生前、教会からたびたび警告を受け、そのため世間には秘められていた彼の思想的著作が死後次々に発表されると、世界的に大きな反響が巻き起こり、そこから新しい思想の糧(かて)をくみ取ろうとする動きが科学、神学、哲学などの各界に現れた。
真摯(しんし)な科学者として多年研究にいそしんできたテイヤールにとって、宇宙、生物、人類がいままで進化の道を進んできたことは疑いえない事実と思われたが、問題は、この人間が宇宙のなかでいったいどのような位置を占めているかを省察し、さらにその人間観がキリスト教信仰とどのようにかみ合うかを問うてみることであった。1926~1927年に書かれた『神の場』では、この現実的世界が実はキリスト教的な神の遍在を示す聖なる場所であることが説かれている。また主著『人間という現象』(1938~1940)では、物理的世界から生物的世界へ、さらにそのうえに思考力を備えた人間の世界がどのようにして成立してきたのか、またこの人類が何を目ざして進んでいきつつあるか、という未来への展望をはらんだ雄大な諸科学の総合的世界観が展開されている。
[西村嘉彦 2017年11月17日]
『美田稔・高橋三義・日高敏隆・渡辺美愛他訳『テイヤール・ド・シャルダン著作集』全10巻(1968~1975・みすず書房)』▽『トレモンタン著、美田稔訳『テイヤール・ド・シャルダン』(1966・新潮社)』▽『C・キュエノ著、周郷博・伊藤晃訳『ある未来の座標――テイヤール・ド・シャルダン』(1970・春秋社)』▽『G・H・ボードリイ著、後藤平・三嶋唯義訳『信仰と科学――テイヤール・ド.シャルダン』(1978・創造社)』