日本大百科全書(ニッポニカ) 「デリベス」の意味・わかりやすい解説
デリベス
でりべす
Miguel Delibes
(1920―2010)
スペインの小説家、ジャーナリスト。現代スペインを代表する作家の一人。1948年、処女小説『糸杉の長い影』によりナダル文学賞を得て文壇に登場。代表作は、カスティーリャ地方の田舎(いなか)の人々の生活を3人の子どもを主人公にして描いた小説『道』(1950)、ねずみ捕りをして自然のなかに暮らす男と彼を慕う子どもを描いた『ねずみ』(1962)など、故郷カスティーリャの人間と自然に対する深い愛情が息づいている。文明の進歩と管理化社会が真の人間性を失わせていく今日の状況への警告と、自然で素朴な生き方への憧憬(しょうけい)が、彼の作品の基本テーマである。これは、マドリードに居を移さず、つねに故郷の古都バリャドリードから離れることなく文筆活動を続けたことと無縁ではあるまい。その後も『マリオとの5時間』(1966)、『難破者のたとえ話』(1969)、『カヨ氏の一票』(1978)など、スペイン現代社会の問題に直接取り組んだ作品を次々に発表した。1980年代以降も、『無垢(むく)なる聖者』(1981)、『好色六十路の恋文』(1983)、『灰地に赤の夫人像』(1991)、『退職者日記』(1995)など、旺盛な創作意欲を示し、『異端者』(1999)では、古都バリャドリードを舞台に、豊かな商家に生まれた主人公が数奇な運命をたどり、フェリペ2世時代の異端審問所に追われ、ついには火刑に処されるまでを描き、当時の綿密な歴史考証を基礎に、簡潔な語り口とともに魅力的な物語をつくりあげている。同年の国民文学賞を獲得した。ジャーナリストとしても活躍し、バリャドリードの新聞の編集長を務めたこともある。スペイン王立アカデミー会員。1993年度ミゲル・デ・セルバンテス賞受賞。
[東谷穎人]
『喜多延鷹訳『好色六十路の恋文』(1989・西和書林、星雲社発売)』▽『岩根圀和訳『赤い紙』(1994・彩流社)』▽『喜多延鷹訳『灰地に赤の夫人像』(1995・彩流社)』▽『喜多延鷹訳『エル・カミーノ(道)』(2000・彩流社)』